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「呼ばれた後のミソラちゃん、わんこみたいにポニーテル振り回して可愛かったなぁ」
「い、犬なのか馬なのかどっちなんだ」
「どっちでもいいよ~? お前らが社長室から帰ってくるまでの間に、みんな必死でにやにやを引っ込めたんだからな」
銀髪ということ。
ミライ旅行社の御曹司であるということ。
幼い頃から注目されやすかった彼は、人付き合いに潔癖な面がある。
踏み込まず、踏み込ませず、嫌わず、嫌われず。
ロキを除いて、他人をその内面に入れたことはないはずだ。
母親であるリョウでさえも。
「もう諦めて、名前で呼んでやれよ。そもそも添乗課はそういう慣習だろ?」
「あっちは苗字でこっちは名前とか……僕にそのつもりがなくても、向こうがその差を気にするから嫌なんだよ」
「添乗課の他の人のことはちゃんと名前で呼んでんじゃん」
「それは、1年以上経ってからだし」
「他の課の女の子に気兼ねなんてしなくていいんだぞ?」
赤かったシロイの顔がさらに真紅に染め上がる。
人付き合いに潔癖な彼だが、恋愛面には潔癖というより純情なのだ。
「お、お前と違って僕は女性から言い寄られる事に慣れてないからなっ……」
「まぁなぁ。社会人になった途端急にモテ始めて、あっちもこっちも中途半端にしてとんでもない修羅場を生んでたからなぁ」
「ごめんなさい。それ以上言わないで下さい」
いつの間にか空になった3杯目のビールジョッキをテーブルに置くと、すぐさま4杯目が運ばれてきた。ロキの気配りは流石だが、実はこうやって着々と酔わせて本音を引き出そうという魂胆が隠されているという事に、シロイは何年も一向に気付かない。
「とにかくさ、あの子を教育担当として抱えている以上は、お前が守ってやるんだ。目を離さずちゃんと側に置いとけよ」
真面目になったロキの声に、酔っ払いかけたシロイも背筋を伸ばす。
「あぁ、次からは名前を呼ばないように気をつける」
「いや、話がずれてる」
「僕はロキみたいに女の子あしらいがうまくないから、もう、あんな状況にならないようにする」
「そうじゃなくて……」
「だいじょうぶ。ぼくはしらふだぁ」
「そう言う奴はたいてい酔ってるんだよっ!!」
突っ込みながらロキは思う。
こういう所をもっと曝け出せば、皆がとっつきやすくなるのになぁと。
だがしかし、なんとなく、これはやっぱり俺だけが知っていればいいかなぁ、とも。
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