② エクアトに雪女。

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「まさか、彼女が雪女だったなんて……髪を茶色く染められたら、全然分からないもんだな」 彼女の本名は、ターニャ=スリクラ。 ノーサールの2級冒険者で、高位冒険者が持つ二つ名は「雪女」。 水属性の中でも難度の高い氷魔法を自在に操る事で有名だ。 青く光るその髪色を晒していたなら、きっとシロイなら一目で気付いただろう。 しかし、このツアー中彼女は髪色を偽っていた。 気付かないのも当然だ。 とは言え、こんな南国であれだけの氷魔法を展開できる者は少ない。 建物内を氷の膜で覆いつくすなんて芸当ができるのは、雪女の異名を持つ彼女だからこそ。 だから、ミソラも途中で彼女の正体に気付いた。 「でも、こんな時間から事情聴取って大変ですね」 時刻はもうすぐ4時。 明日の出発は9時。 事情聴取から戻っても眠る暇はないだろう。 ミソラは、眠れるかどうかは分からないが、少しでも横になって疲れを取りたい。 とにかく早く、ホテルに戻って休みたい。 「あぁ。ちなみにカリアスさんも今から事情聴取だよ」 え。 「もちろん、警察じゃなくて僕相手にね。あれほど夜の1人歩きはダメだって言ったのに……」 ゆらりと、シロイの後ろに怒りのオーラが見えた気がした。 怒ってる。 怒られる。 「さぁ、ホテルに戻って朝食の時間までに詳しい話を聞かせてもらおうか」 ひぃぃ、怖い。 どうしよう、怒ってる。 穏やかな口調のまま、口元に笑みをたたえたまま、怒ってる。 「す、すみませんでした」 「演舞団の責任者の方がテントの状態チェックに入られるそうだから、謝罪はあとでいいよ。とにかく、ホテルに戻ろう」 「まぁ、お気遣いありがとうございます」 シロイの後ろに立っていた女性がぺこりと頭を下げた。 スーパー美人さんだ。 演舞団の責任者ってことは運営の事務方だろうけど……主役級の演者さんと見紛うオーラだ。 裏方さんまで美しい演舞団、恐るべし……と思いながらミソラも女性にぺこりと頭を下げ、既に通路を歩き始めているシロイの後を追いかけた。 外に出ると演舞団関係者や警察官が大勢集まっており、思っていたより事態が大きくなっていたことを知る。 警察官の中にコリンの姿を見つけた。 無事に保護されたらしい。 その近くにはキャミ=ナユールがいて、申し訳なさそうに頭を下げている。 縛り上げて転がされたコリンは、苦笑いで応じていた。 コリン、無事で良かったな。 なんて言っていられないほど、このあとホテルのロビーでこんこんと説教されたミソラは、もう絶対にシロさんを怒らせないようにしよう……と固く心に誓ったのだった。
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