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プロローグ
「…………は?」
いつも冷静沈着なその顔が、じわりじわりと驚愕の色に変わっていく。
その要因が私にあると思うと、なんだか妙に心地が良い。
「聞こえなかった? 私、進学はしないよ」
「え、な、なぜ……」
狼狽えてる。
うろたえてるぅぅ!
この感情は反抗期的な征服欲からくるものなのか、それともただの甘えなのか。
滅多に見られない動揺したその顔を引き出せたことに、正体不明の満足感を覚えた。
「進学するより興味のあることを見つけたの。座学より実地に限る!!……と思わない?」
可愛く小首を傾げて、相手の顔を覗き込む。
これが育ての父にとって一番効果的な仕草だと、私は知ってるんだ。
背の高い義父の顔は、わざわざ覗き込む必要もなくしっかりと見えているけど、黒髪のツインテールが揺れるようにしっかりと小首を傾げるのがポイントだ。
ほら、案の定、驚きに染まっていたその目尻がほんの少し下がった。
「それには同意しかないがしかし……」
戸惑ってる戸惑ってる。
たまには取り乱せばいい。
「パパ、お願い!」
目を潤ませ、上目遣いでその顔を見上げる。
背の高い義父を見るときはいつだって上目遣いにしかならないけど、今日は特別サービスでさらに上目を意識する。
頑張れ、涙腺!
溢れなくてもいいから、適度に潤う程度に水分を出して!!
「私、どうしても旅行会社で働きたいの……!!」
陥落まで、あと30秒。
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