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① 新人はホイホイ?
砂塵で遮られた視界の隙間から突然、緑色の巨大な何かが現れた。
表面には、ぬらりと鈍く光る鱗がびっしりと敷き詰まっている。
それがまるでこちらを叩き潰そうとするかのように大きく伸び上がり、周囲から悲鳴が上がった。
ミソラはその悲鳴にうろたえることなく、まっすぐに目の前の魔物を見つめている。
その瞳にはむしろ、もっと近付いて来いと言わんばかりの挑発的な色さえ浮かんでいた。
巨体が思い切りその身をしならせて地上の人間を叩き潰そうとした、その時――金色の閃光が迸り、耳をつんざくような轟音と共に緑色をずぶりと貫いた。
緑色の物体は大きく開いた穴から青い血飛沫をあげ、のたうちながらずるずると後退していく。
「ぶ……ぶらぼー!!」
「カッコイイ!」
後ろから聞こえてきた安堵の歓声に思わず微笑む。
喜ぶのはまだ早いよ。
だって、お楽しみはこれからなんだから。
「本体が出てきます。少し下がりましょう」
先輩添乗員シロイの冷静な声に、見学人たちのきゃっきゃとはしゃいでいた声が静まる。
目の前にいる40~50代の男女8名はいずれも、ミソラとシロイがアテンドしてきた旅行客だ。
このツアーの目的は、戦闘シーンを間近で見ること。
魔法の使えない彼らにとって、冒険者と魔物の戦闘は刺激的なショーと同等の存在らしい。
「本体って……今ので倒したんじゃないの!?」
「まだ戦いが見られるなんて、ラッキーだな」
さっきまで悲鳴を上げていたくせに、今は誰もがうきうきと目を輝かせている。
冒険者はいつだって命を懸けて戦っているのに。
どうしてみんな、こんなに呑気なんだろう。
見学人を後ろへと誘導しながら、自分の仕事を棚に上げてミソラは内心で苦笑した。
そんなお気楽な見学人たちが200mほど後退したところで突然、渦巻く風に砂塵が巻き上げられ、ようやく晴れた視界の先に“本体”が現れた。
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