為せば成る

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「あ、あの…どうでしょうか?」 同じ姿勢のまま、ひたすら咀嚼している少年に、恐る恐る訊ねる茉莉。その両手は、悪代官にゴマを摺る悪徳商人の様に、すりすりと擦り合わされている。 愛想笑いを貼り付けた裏で、茉莉は、人知れず追い詰められていた。 『どうでしょうか』と訊かれても、困るだろう。絶対、不味いに決まっている。こんな下手くそな料理を、良くも客に出せたものだ。そしてこの沈黙は、一体なに?? もう無理限界。お代は要らないと伝えよう。即刻、今すぐ、早急に──! 「あ、あの…お客様」 そう言い掛けた…まさに、その時であった。 「先ず、肉が固いです。折角の豚ロースなのに、肉汁が出てパッサパサになっています。ソースは、オーナーシェフのレシピ通りなので、美味しく頂けました。すずかぜ嬢の難点は、とにかく肉の扱いです。焼き方も勿論ですが、先ずは下ごしらえをしましょう。脂と赤身の間に軽く切込みを入れて、筋切りして下さい。肉には軽く塩を振り、少し置きます。小麦粉を付ける方法もありますが、こちらのオーナーは、そのまま強火で焼いていますね。それと、すずかぜ嬢は、肉を小まめにひっくり返して焼いておられましたが、基本、肉はあまり動かさない方が宜しいです。フライパンを揺する様にしながら、油を回し掛けて焼き、両面に程良く焦げ目が付いたら、肉を取り出して少し休ませます。これで肉の旨味がより引き出され、且つ柔らかく、ジューシィに仕上げることが出来るでしょう。」
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