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すずかぜ食堂のポークソテーは、店を継いだばかりの丈太郎が、初めて取り入れた洋食メニューであった。
当初は、初代店主の祖父・清太郎に、猛反対されたという。
創業以来、和食一筋でやってきた清太郎と、洋食メニューを増やそうとする丈太郎の間には、少なからぬ確執があった。
結局、和解する事の無いまま、八十五歳で天に召された祖父は…今のこの、すずかぜ食堂の繁盛振りをどう思っているのだろう??
まだ、怒っているのか──それとも。
草場の影から、密かに喜んでくれているのか…?
茉莉は、一人娘だ。
すずかぜ食堂を継ぐつもりなど、さらさら無かった。だが…
「ポークソテーだけは、絶対マスターする!じいちゃん、ごめん!!」
今や、すずかぜ食堂の人気メニューとなったポークソテーを、あの少年に食べて貰いたい。そして、必ず『美味い!』と言わせたいのだ。
茉莉の孤独な挑戦は続く。
真摯なその後ろ姿を、丈太郎が、こっそり見守っていたとも知らず、すずかぜ嬢は、ただ無心に豚ロースと向き合うのであった。
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