父の背中

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少年は、いつもの様にカウンター席に座る。 茉莉も、いつもの様にお冷を出して訊ねた。 「ご注文は?」 「ポークソテーを。」 注文など訊かなくとも解っているのだが、このルーティンは外せない。 少年は、夏休みにも関わらず、夏用の制服を着ていた。この日の為に努力を重ねた挑戦者に対する──それが、彼の礼儀なのであろう。 注文を受けた茉莉は、『かしこまりました』と深々と頭を下げるや、何故か摺り足で厨房に下がった。その仕種はまるで、主君の命令を受けた忍者の様である。 茉莉も少年も、完全に雰囲気に酔っていた。時代劇で言うところの『果し合い』の場面の様に、芝居掛かった空気を醸し出している。 店の奥では、二人の様子をハラハラしながら覗き見る、父・丈太郎の姿があった。
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