父の背中

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父の背中

そして、決戦の日曜日はやって来た。 すずかぜ食堂の小汚い引戸には、相変わらず、臨時休業の貼り紙がひっ付いている。 商店街の片隅に、すずかぜ食堂がオープンして五十五年──。こんなにも長く休業していた事は、初めてだ。 常連客の間では、『店主が深刻な病に侵されているらしい』等という、不穏な誤報が飛び交っていた。 そんな事になっているとは露知らず── 茉莉は、全ての準備を終えて、少年を待ち構えている。 そして、午前十一時。 何の前触れも無く、店の扉が開かれた。 「頼も──う!」 そう言って現れたのは、(くだん)の少年である。まるで、時代劇に登場する道場破りの剣豪の様に、肩を怒らせて仁王立ちしていた。 茉莉もまた、「どぉれ!」と応えて、彼の世界観に合わせる。 こうして、にわか料理人VS肉食系男子の仁義なき戦いの火蓋が、切って落とされたのであった。
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