怪談「龍蛇権現」

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怪談「龍蛇権現」

怪談「竜龍蛇権現」 藤原さんが小学生の頃、こんな学校の怖い噂があった。 竜星山麓の学校から少し登った所に、竜蛇神を祀る神社があった。 お社の裏に狸の寝ぐら程の穴がある。 遠足で訪れた先輩のAさんが、這い蹲って穴に潜ると奥の方に真っ赤な二つの目が光っていた。驚いたAさんは、匍匐前進を止め匍匐後進して外に出た。 クラスメイトに伝えると、狸だろう、と言う。 が、Aさんは見たと云う。 狭い穴蔵の中、赤い眼光を放つ白い女の顔が迫ってくるのをーー。 藤原さんは、次の様な怪談も語ってくれた。 藤原さんは、一度死んだ事がある。 飲み屋から出た所で神社の池にションベンをして境内を出た所で、トラックに轢かれて救急車で搬送されたが、既に心肺は停止状態だった。 その頃、自宅一階で仮眠を取っていた妻のEさんは、大きな笑い声が聴こえて目を覚ました。 一階の和室で寝ていたのだが、窓を見ると懐かしい顔が室内を覗いている。 数年前に死んだ愛猫のテツだ。虎毛のオスで、享年十四歳。老衰だった。 最期の日、テツの容態を知っていた藤原さんが、仕事を終えて急いで帰宅すると、Eさんの腕に抱かれたテツは既に意識が無かった。しかし藤原さんが呼び掛けると、ハッと意識を取り戻し、最期の別れを済ますと「ガクっ」と首を垂れて亡くなった。 あれから数年、突如現れた愛猫に、特にテツの表情に驚いた。 「テツちゃん、グワッとした表情で、こっちを見てた」 その後ろから、数人の笑い声が聞こえた。 その頃、医師に呼び掛けられながら、病院で心臓マッサージを受けていた藤原さんが意識を取り戻した。 「あれ、誰かが呼んでるなって、藤原さん、藤原さんって。それで目を開けたら、医師の顔があった」 藤原さんは蘇生措置の結果、息を吹き返したのだ。 それから仕事にも復帰した藤原さんだったが、彼が勤めているのは、川の近くの会社で、周囲には、ちょこちょことお墓がある。 噂では、会社の建物も墓地を整地して建てたのではないかという。 この辺りは、暴れ川の水難で、昔から沢山の死者を出していた。古い墓には暴れ川の氾濫で亡くなった方も多い。その供養塔も数多く建立されている。 叔父さんは、意識を無くしていた間、川の夢を見た。 水害で亡くなった人たちが、供養塔がある対岸から手招きする夢だ。その死者の集団の中央には、和服を身に着けた美しい女性がいた。竜星山を源流とするあやかし川の支流の川辺に建つ竜池寺で祀られる竜蛇権現に似ていた。竜蛇権現は琵琶を奏でていて、その音色に誘われ、叔父さんは川渡ろうとした。 だが、死んだ愛猫が呼ぶ声がして目を覚ました。 目を覚ますと、愛猫の声だと思ったのは医師の呼び声だった。 終わり この怪談に連なる物語は、こから。 「百々目鬼怪談文庫 竜星編 竜宮の使者」 作品トップのあらすじ下部にリンクがります。 この作品は創作怪談です。 このエピソードは、実在の土地・地名・神社・歴史とは関係ないフィクションです。
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