コンビニの某アイス

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「あっちぃ。」 「もうつくから、我慢しなよ」 私と彼は校外学習へ行くべく、自転車を飛ばしていた。 呑気な田舎道をこんな風に、喋りながら走れる。それは、私にとっては好都合だったからだ。 こんな風に、彼としゃべることなんて、もうないかもしれない。 そう思って、ふと自転車を止めた。 異変に気づいた彼が、 「どうした??」 と聞いてくるので、 「コンビニ寄ろう!」 「は?」 当然、彼はビックリしていた。 それもそのはず。コンビニなんてまだまだ先だ。 「だから!!目的地に先に着いた方が、コンビニでアイス奢るの!」 だって。そのままの関係なんて嫌だから。 なにもしないなんて嫌だから。 この校外学習を楽しみにしてきたのは、きっと私だけだから。 「言ったな??」 勝負ごとが大好物な彼はそう言って笑顔を作った。 「「よーい!!ドンッ!!」」 「あーあ、お前速すぎだし」 「アイスかかってるとやっぱ本気出すって言うか」 「アイスばっか食ってると太るぞ」 「殺すぞ」 私が勝った。 当然、大差つけて勝った訳じゃない。 それでも奢ってくれるのは彼の優しさだろうか。 「じゃ、ちょっと買ってくるから待ってろ」 「はーいありがとー」 全力で自転車をこいで、全力で笑って。 これが青春なんだろうか。 でも、忘れてはいけないことがある。 彼は、彼女がいるという噂だ。 「…てか、好きになる理由もないしっ!!!」 恥ずかしくなってひとりで言ってみる。 自分で言ったのになんとなくもやもやとした。 「っ!?」 頬に冷たいものが当たり、声にならない声をあげた。 よく見ると、60円の某アイス。 「やる…」 「えっ、ああありがと…」 彼の顔も見れずに受けとると、さっきまで好きだとか青春だとか考えていたことを思いだし、ひとりで赤面していた。 「…溶けるよ…」 そういわれたので、開けようとして、彼の口数が少ないことに気がついた。 ふと彼を見ると、彼も同じように顔を真っ赤にさせてアイスを頬に当てていた。 そのしぐさに胸が高鳴るのを感じながら、彼がくれた某アイスを食べた。 某アイスは、夏の暑い日でも冷たいままで私たちの火照った頬をひんやりとひやしていた。
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