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しばらく待っていると、色々と手にした涼介が戻ってくる。
「走ったりしてお腹すいてるでしょ? 家庭科部で出してるスコーン……おいしいよ」
そう言って涼介が差し出してきたのはスコーンにジャムが添えられている見た目にもオシャレなものだった。
「なんかお前……俺には食べ物を与えればいいって思ってない?」
以前のオムライスも思い出して拗ねたように言うと、涼介は笑いながら答えた。
「そんなことないって。でも、雪乃くん食べるの好きでしょ」
「まあ……」
「それに料理は、みんなよりも俺が一番有利だからね」
笑顔でそう言われてしまうと、それ以上何も言えない。
「……ありがと」
「今、それに合う紅茶も淹れるね」
俺が素直にお皿を受け取ると、涼介はいそいそと紅茶の用意をし出した。
「なんか甲斐甲斐しいな」
「そりゃあ、貴方の執事だからね」
そのネタ……まだ続いてたの?
「執事が主にタメ口かよ」
俺が嫌味を言うと、涼介が紅茶を俺の前に置きながら言う。
「敬語の方がよろしいですか? はい、紅茶が入りましたよ」
「……敬語じゃなくていい」
なんか敬語だと距離を感じて、どうも落ち着かない気分になる。
すると、涼介も同じだったのか少し安心したように答えた。
「良かった。ほら、冷めないうちにどうぞ」
「いただきます」
そう挨拶してから一口スコーンを口に入れると、程よい甘みが口に広がる。
それを紅茶で喉へと流し込むと、これもスコーンと良く合うおいしい紅茶だった。
「雪乃くんは気にしないで食べてていいからね」
そう言うと、涼介はさっきのように俺の足元へと膝まずいた。
そして、俺の足を取り冷たいタオルで包み込む。
「そ、そこまでしなくていいよ!」
「今冷やしておかないと靴はけなくなるよ。生徒の前で抱き抱えて帰って欲しい?」
あまりに世話を焼きすぎる涼介を慌ててやめさせようとしたが、強い口調で怒られてしまった。
なんだか恥ずかしいが、俺は素直に従うことにする。
そのため、俺がスコーンを食べている間、涼介はずっと俺の左右の足を冷やしてくれていた。
「顧問がこんな所にいて大丈夫なのか?」 「うん、もうすぐ学園祭も終わりだからね」
黙っているのは気まずくて食べながら俺がそう聞くと、涼介からはそんな返事が返ってきた。
そっか、バタバタして忘れてたけど、もうそんな時間なんだ。
「たぶん、そろそろみんなラストのキャンプファイヤーで校庭に移動し始めるんじゃない?」
絆創膏を用意しながらそう言った涼介の言葉に耳をすますと、窓の外の校庭がざわざわと騒がしくなってきたことに気づく。
「はい……後は無理しないようにね」
擦れて赤くなっていた箇所に絆創膏を貼り終えた涼介が立ち上がりながらそう言った。
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