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失礼さんの重低音にやられ
正気に戻る隙も与えられないまま
気がつけば黒塗りの車の後部座席に押し込まれていた
・・・ゆ、誘拐か?
そう頭を過ぎった絶望的観測は
「吏美さんもお待ちです」
助手席から振り返った失礼さんの口から
母の名前が出たことで取り越し苦労に終わった
それにしても・・・
私でも知ってる高級車
それがお迎え?って
母はいくら払ったのだろう?
・・・心配
それに・・・
気付かない振りをしてきましたが
そろそろ無理がありますよね?
大人が3人座っても余裕がありそうな広い後部座席の
運転席の後ろに座っている男性
ギーギギギ
潤滑油不足の機械のような音を
効果音で思い浮かべながら
チラリとそちらを向くと
「・・・っ」
射抜くようにこちらを見つめる
漆黒の瞳に囚われた
・・・こ、怖っ
さっきまでのホラーなんて
赤子の遊びだったのか?
この人から立ち上がる
冷たいオーラで身体の自由が奪われる
あ、あれか
母の名前まで出して
実は海外へ売り飛ばす・・・とか?
「違う」
「へ?」
イキナリ“違う”と言われて
慌てて変な返ししちゃったじゃん
「フッ」
え?
笑った?
少し・・・ほんの少しだけど
口角が上がった
少し高揚する気分を
簡単に壊したのは
「ブッ」
助手席で大きく吹き出した失礼さん
な、殴って良いですか?やっぱり
そう思った瞬間
右隣で綺麗に組まれていた長い脚が
助手席の背もたれにクリンヒットした
「ヒッ」
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