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その後、彼女は神奈川支店に行った。うまく行かなかったようで、そのあとも支店を転々としているらしい。
ただ、あんなにすごいと騒がれていた彼女も、3年もすると、他の同期たちに抜かされ、話を全然聞かなくなった。
『久しぶり。飲みに行かない?』
ちょうど4年目を迎えた日、彼女から連絡がきた。
彼女が今、何をしているのかわからない。でも、マウンティングはやめてほしいので、丁重にお断りした。
「なんか旦那が、松原花香だっけ? から、相談したいとか言われて、二人きりで会いにいったんだけど」
樹里……。親友のように仲良くなった異動してきた坂根さんの奥さん、坂根樹里が色々と教えてくれた。
ちなみに、1年目のときに松原花香と代々木の支店長、坂根さんは付き合っていたそうだ。
「まじか」
「まじまじ! すんごいモヤモヤすんだけど。しかも辞めたいとか漏らしてたらしいし……」
樹里はモヤモヤしながら、ビールをイッキ飲みした。私は、彼女を見て苦笑する。
坂根さんに会いに行ったってことは、本当に今、居場所ないんだろうな……。私に飲みの誘いをするくらいだし。
「辞めたいねぇ……。辞めないでって言われるのを期待してるんでしょうね」
「……え、そうなの?」
樹里は私を怪訝な顔で見つめた。
だって、マウント取るくらいだよ?
承認欲求の塊に決まってんじゃん。本当は孤独で、認められたくて認められたくて仕方ないんだ。
「まあ、見ててみなよ。辞めないから 」
私の見立て通り、彼女は辞めなかった。人事表を見れば、『松原花香』の文字。
嫌われてもなお、その場に留まる図太さに、私は関心すらした。
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