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「花パン、飲みに行くか」
思ったこととか、悩みとかを打ち明けるとすぐにみんな聞いてくれる。
「支店長が、あまり……」
「じゃあ、こっちの店にくればいいよ」
そんな風に言ってくれる。いいな。神奈川の支店にも行ってみたいし、その線も考えようかな。
重宝されているから、いくらでも買ってくれる。
私の我儘はいくらでも聞き入れてくれそうだ。
そんな絶頂の2年目、転機が訪れた。
「新宿支店、伸ばしてんなー。すげぇわ」
「すごいのは、あの2年目だよ。今や副店長がどっちだかわからないって言われてるみたいだぜ」
「それはそれは……」
噂が飛び交う飲み会。上層部が結構いる飲み会で、新宿支店の話になった。
新宿支店の2年目といえば、あの子がいるところだ。
山崎愛海という普通の子。
山やんという愛称で通じている。同期の飲み会には全く顔を出さない。頭の良さというよりは、笑顔で通った話を聞く。
笑顔ってなんだ。愛嬌はあるかもしれないけど、別に対して美人でもない。私の敵じゃない。
うちの代々木支店の支店長、坂根も、1年目のときは「あんな大きい支店に1年目入れるなら、お前の方がよかったよな。ま、俺は助かってるけど」とぼやいていた。
それもそのはず、私はずっとバイトをしていたから、流れがわかる。もちろん、営業はしていないけど、裏方でバイトして、ずっとスキルを盗んでいた。対して、山やんは初めてこの仕事に就いている。内定者式ギリギリに内定したから、社内に友人もいないし、研修も積んでいない。
隣の支店は大きく、それなのに人数が少なく、とにかく忙しいらしい。
だから、なんであの子が、という声が多かった。
「なあなあ」
人事部長の中林さんが話しかけてきた。首をかしげると、にやりと笑われる。悩みでも聞いてくれるかな。神奈川に行きたいって話をしたいんだけど。
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