マウント女の戯言

3/18
前へ
/18ページ
次へ
「花パン、飲みに行くか」 思ったこととか、悩みとかを打ち明けるとすぐにみんな聞いてくれる。 「支店長が、あまり……」 「じゃあ、こっちの店にくればいいよ」 そんな風に言ってくれる。いいな。神奈川の支店にも行ってみたいし、その線も考えようかな。 重宝されているから、いくらでも買ってくれる。 私の我儘はいくらでも聞き入れてくれそうだ。 そんな絶頂の2年目、転機が訪れた。 「新宿支店、伸ばしてんなー。すげぇわ」 「すごいのは、あの2年目だよ。今や副店長がどっちだかわからないって言われてるみたいだぜ」 「それはそれは……」 噂が飛び交う飲み会。上層部が結構いる飲み会で、新宿支店の話になった。 新宿支店の2年目といえば、あの子がいるところだ。 山崎愛海(やまざきまなみ)という普通の子。 山やんという愛称で通じている。同期の飲み会には全く顔を出さない。頭の良さというよりは、笑顔で通った話を聞く。 笑顔ってなんだ。愛嬌はあるかもしれないけど、別に対して美人でもない。私の敵じゃない。 うちの代々木支店の支店長、坂根も、1年目のときは「あんな大きい支店に1年目入れるなら、お前の方がよかったよな。ま、俺は助かってるけど」とぼやいていた。 それもそのはず、私はずっとバイトをしていたから、流れがわかる。もちろん、営業はしていないけど、裏方でバイトして、ずっとスキルを盗んでいた。対して、山やんは初めてこの仕事に就いている。内定者式ギリギリに内定したから、社内に友人もいないし、研修も積んでいない。 隣の支店は大きく、それなのに人数が少なく、とにかく忙しいらしい。 だから、なんであの子が、という声が多かった。 「なあなあ」 人事部長の中林さんが話しかけてきた。首をかしげると、にやりと笑われる。悩みでも聞いてくれるかな。神奈川に行きたいって話をしたいんだけど。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加