紫陽花の残り香

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4年ぶりに帰省した地元の景色は、相変わらずだった。 田園風景、寂れた商店街、そして紫陽花。 ここに帰ると、いろんなことを思い出す。 私は、紫陽花の色が嫌いだ。 久々に行われた高校の同窓会に出席する。そんなイベントがなければ、わざわざこんな季節に帰って来ることはなかった。 「めぐみー、ちゃんと飲んでる?」 「…ええ、まあ。」 小さな居酒屋を貸し切って、同窓会は行われた。集まったのは、20人くらいだった。 グラスにはまだ、少し酒が残っている。早く次の注文を、と急かしてくる彼女とは、どの程度の仲だったか。 参加した人たちの中で、見知った顔はどれだけいるのか。誰が参加するかなんて、いちいち確認してない。十年という月日は、当時の面影を失わせるには十分な時間だ。 それでも、忘れられない顔が、2つ。 尚も名前を思い出せない旧友に急かされて、グラスの酒を飲み干す。氷で薄くなってしまったからなのか、酒の味がしない。 適当に追加の注文をすると、彼女は満足げに他のテーブルに行き、また誰かに酒を勧めている。 元々、参加する予定ではなかった。SNSで誰かが同窓会を開こうと言い出して、急遽決まった話。私は、特に会いたい人もいなかったから、出るつもりもなかった。だけど、来てしまった。いや、呼ばれてしまった。 「めぐみ、久しぶり!元気にしてた?」 「久しぶり、ゆうこ。…私は相変わらずかな。それから、結婚おめでとう。結婚式に、参加できなくてごめんね。」 「ありがとうっ!めぐみはバリバリのキャリアウーマンだから仕方ないよ、気にしないで。」 「ゆうこに誘われなかったら、この同窓会も知らなかったし、ありがとね。」 「ううん、私が一方的に誘って迷惑かなって思ったんだけど、どうしても会いたくて。仕事は大丈夫?」 「ええ。と言っても明日には戻るけどね。」 「そうなの?もっとゆっくりしていけばいいのに!」 ゆうことは、中学校の時から仲良くなって高校生活では一番多くの時間を共に過ごした。 親友との、久しぶりの再開。私達のことを知っている人からは、そう見えるだろう。 だけど、私はゆうこが嫌いだ。 「…結婚生活はどう?子供は?」 「まだ実感湧かないかなー。そもそも付き合って半年くらいだし、子供も今は考えてない!」 「…そう。そういえば、けんと君も来てるんだね。気まずくない?」 「けんと?もう別れて3年は経ってるし、特に気まずいとは思わないよ?それにけんとも来年には結婚するって言ってたし。お互い後腐れないって感じ?それより、めぐみはどうなの?いい人いないの?めぐみの周りは高学歴のいい物件ばっかでしょ?」 「はは、そんなにいいもんじゃないわよ?私は仕事してる方が落ち着くから、それでいいの。」 視界の端に、何度も映る彼の姿。当時の面影を残した横顔に、私は自然と目を奪われていた。 私は、けんと君も嫌いだ。 「…もう十年にもなるのかー。嫌だね、歳をとるのは。あの頃は楽しかったよね!めぐみと過ごした時間が一番長いから、色んな思い出があるよね。あの頃に戻れたらなー。」 「…そうね、色々あったわね。」 注文した酒が、運ばれてきた。ひと口、ふた口と冷えたそれを喉に流し込む。強めの酒を頼んでみたが、やはり味がしない。 私は、ゆうことけんと君、2人が嫌いだ。 色々あった高校生活の中で、私の思い出の大半を占めるこの2人のことを、いつから嫌いになったのか。 そういえば、ちょうどこの季節だった。 私は、けんと君が好きだった。ちょっと優しくされて、すぐに惚れてしまったチョロい女だった。一年以上、想いを秘めて過ごした。優しい彼は、きっと私のことも好きに違いない。そんな風に思っていた。もちろん、当時の親友であるゆうこにも、何度も相談した。 そして、意を決して、けんと君に告白しようと思い立ったあの日、私は見てしまった。 雨の中、一つの傘の中で抱き合う、ゆうことけんと君。 雨粒も、風も、音も、全てが静止してしまって、景色の何もかもが真っ白になっていく中、紫陽花だけがその色を鮮明に映した。 その時の光景は、今でも脳裏によぎることがある。 「今日はこんな風にしか会えなかったけど、これからはこっち帰って来た時は私とも遊んでよ!専業主婦は何かと寂しいからさ。」 「…そうね、中々帰ってこれないけど、そのときは声をかけるようにするわ、ありがとう。」 そう言って、私はまた酒を喉に流した。そうでもしないと、私は何を口走るかわからない。 ゆうこが、他の友人に呼ばれた。まだ何か言いたげな顔をしていたが、じゃあまた後でと言い残し、テーブルから離れていった。 グラスを両手で握りしめる。冷たさがじんわりと手のひらに広がる。 後日談で知ることになったが、けんと君も、最初は私のことを好きだったようだ。だが、私と一緒にいるゆうこに相談をしているうちに、ゆうこのことを好きになってしまったようだ。両人から相談を受けていたゆうこの気持ちを推し量ることはできないが、けんと君と付き合ったということは、そういうことだろう。 私は、受け入れられなかったが、それでもいいと思った。思うようにした。二人がこのまま幸せになるのならそれでいい。二人のことが好きだから。そう思っていた。 でも、二人を見ているのがつらいから、なるべく関わらないように、少しずつ、距離を置くようにした。 そして、消化できずにいるこの気持ちを、いつまでも抱えながら、私は過ごしていた。 大学生になっても、社会人になっても、恋愛関係に発展しそうになると、消化できないもやもやが再燃して、どうにも本気になれずにいた。 だというのに、数ヶ月前にゆうこから久々に連絡が来たと思ったら、結婚するという。しかも、相手は長く付き合ったけんと君ではなく、最近付き合い始めた男性と。その時の私の気持ちは、いまでも形容しがたい。 「…あの頃に戻れたら、か。」 戻れたら、戻れるのなら、私はどうしただろう。彼の心が傾く前に、行動できただろうか。 「…吉田さん、だよね。」 「?」 誰かが、話しかけてきた。うつむいていた顔をあげると、見覚えのない人がいた。 「どうしたの?あんまり楽しそうじゃなさそうだけど。」 「…ちょっと飲み過ぎたみたい。」 その人は自然な動作で私の前に座った。 …誰だっけ?思い出せない。そもそも私に親しい男友達はいなかった。同じクラスだった誰か? 「大丈夫?お冷やでももらってこようか?」 「ん、大丈夫。…それより、ごめんなさい。私、あなたの名前を思い出せない。」 話が噛み合わなくなる前に、正直に伝えた。すると、彼はキョトンとした顔で私をしばらく見つめ、それから何かに納得した様に何度か頷いた。 「まぁ、そうだよね。多分、それが自然なことだと思う。もう十年も昔のことだし。」 「ホントにごめんなさい。」 「いやいや、謝ることでもないでしょ。…それにしても、相変わらずキレイですね。」 「なにそれ、酔ってるの?」 「あはは、酔ってます。」 唐突にキレイだとか言って、この人は何なんだ。 「みんな、あの頃から変わったような変わってないような、不思議な感じだよね。吉田さんは、どうなのかな?」 「どう、とは?」 「あー…結婚とか、仕事とか、かな。」 「これ見ればわかるでしょ。」 左手を突き出し、よく見なさい、と付け加える。 「あー、その、付き合ってる人とかはいないの?」 「そういうこと聞く?」 「あはは、ダメだな。久しぶりに会えて、何を話していいかわかんなくて。…ごめんね。」 うつむき加減になった彼を見ながら、私は、何か思い出せそうで、思い出せなかった。 少しの間、お互いに黙ってグラスの酒を飲んだ。私は彼の顔をまじまじと見ながら、高校生活を振り返った。 「…ごめん、やっぱり思い出せないわ。名前を教えて。」 「あはは、…さて、僕は誰でしょうか?」 少し、寂しそうにはにかむ彼は、さらに続けた。 「吉田さんにとって、僕は印象に残ってないんだろうけど、僕にとって吉田さんは特別だった、とだけ言っておきます。」 「…なにそれ、私にあなたが誰か思い出せってこと?」 「思い出してもらえると、僕は嬉しいな。けど、思い出せなくてもそれはそれでいいと思う。はじめて会った奴ってことで、少し話ができるだけでも僕は嬉しいかな。」 「…私にそんな価値、ある?」 「もちろん。」 不思議な奴、というかちょっと危ない?とも思ったが、他の、特に親しくなかった相手と、特に思い入れのない思い出話をするよりは楽しい時間が過ごせそうだった。 「話を戻すけど、今は付き合ってる人はいないかな。というか、今までちゃんとお付き合いした人もいないわ。」 「え、そうなの?吉田さん、素敵な人なのに、意外だ。」 「素敵って、…私のことなんかろくに知らないでしょ、あなた。高校生の時の話をしてるなら、今の私はずいぶん変わってると思うわ。」 「そうなのかな?遠目でも、吉田さんだってすぐわかったけどね。」 「外見の話じゃなくて、…あぁもういいや。あなたは結婚してないの?仕事は?私に聞いてばっかじゃなくて、少しは自分の話をしたら?」 「それもそうだ。僕も、今付き合ってる人はいないかな。だから、結婚の予定もない。仕事は、まぁぼちぼちやってる。結構出張が多い仕事で、日本を転々としてるかな。」 「そうなんだ。今まで行った場所で、素敵な所はあった?」 「色々な観光名所に立ち寄ったけど、どこも良い所だったな。けど、こうして久しぶりに地元に帰ってくると、ここが一番だなって思うな。吉田さんはそう思わない?」 「私は…どうだろう。あまりいい場所とは思えないわ。というか、苦い思い出が、今でも忘れられない思い出を思い出すから、ここは好きじゃない。」 「…そうなんだね。苦い思い出って学生時代のこと?」 「どうしてそう思うの?」 「せっかくの同窓会なのに、全然楽しそうにしてないから、かな?」 「よく見てるのね。私のストーカーだったとか?」 「あはは、半分当たりかな。」 冗談で言ったつもりだったのに、肯定されてしまった。そもそもそんな奴がいたなら、忘れる訳がない。 「…紫陽花。」 「え?」 「紫陽花が、嫌いなの。ここは、どうしてか知らないけど、庭に植えてる人が多いでしょ?この季節になると、どこへ行っても紫陽花だらけで、嫌になっちゃう。」 「紫陽花か。…確かに植えてる家が多いね、なんでだろ。そういえば、高校にもあったね。体育館の近くだったかな。梅雨になるといっぱい咲いてた気がする。」 「そう。あれが、嫌いなの。」 ゆうことけんと君を、嫌いになった日から、もれなく紫陽花も嫌いになった。 「紫陽花が、ちょっとうらやましいな。」 「どうして?」 「吉田さんにとって、紫陽花は嫌な思い出の象徴なのかなって。よくないことでも、ちゃんと覚えられてて、忘れられない記憶になってる。覚えられてない僕にとっては、僕を思い出す何かきっかけのようなものがあったら良かったなーって。」 「そろそろ、名前くらい教えてくれてもいいんじゃない?」 「いやいや、ちゃんと思い出してください。…僕はいつまでも待ってますから。」 「…やっぱりストーカーだったの?」 彼は笑いながら、グラスの酒を飲み干した。店員を呼んで、追加の注文をした。私もちょうど空になったから、ついでに彼と同じものを注文をした。 しばらく雑談をした。お互いの仕事だったり、料理のことだったり、あまり記憶に残らないその程度の話。けれども、彼はその一つ一つをとても楽しそうに話していた。 「あなたはずいぶん楽しそうね。」 「楽しいよ。吉田さんはそうでもないのかな?」 「そうじゃないわ。ただ、私とこんな風に話していても、大抵の男の人はつまらなさそうにするから。」 「あー、なるほどね。…多分それは、吉田さんから『私は脈なしです』ってオーラがでてるからじゃないかな。吉田さん分かりやすいから。今日だって、そんなに話しかけられてないでしょ。私に構うなってオーラが出てる。そういうところは昔から変わってないと思うな。」 「そんなに私ってわかりやすい?」 確かに、今日はほとんど話しかけられてない。 「少なくとも僕からみると、分かりやすいかな。案外、恋愛が上手くいかないのはそのせいかもね。」 「大きなお世話よ。…でも、まぁそうなんでしょうね。私の方が、拒絶してるから、男ができないんでしょうね。自業自得。」 「…誰かとお付き合いしたいとかは思わないの?」 「どうだろ。…1人そういう人がいたけど、今はもう、ね。高校の時に、恋愛絡みで嫌なことがあってから、私にとって恋だの何だのは縁遠いものになっちゃった。」 何で私、こんなこと言ってるんだろう。自然と、言葉が出てきた。 「あの頃に戻れたら。戻らなくても、昔の自分に助言できるなら、色々と言ってやりたいわ。…ホント、バカみたいよね。いつまでも引きずって、被害者ヅラして、逆恨みして。自分の心の狭さが、嫌になる。」 あぁ、飲み過ぎたな。ポロポロと、底に溜まってた言葉が、溢れ出す。 「私にとって、全てだった。あの時の気持ちが全てだった。なのに、何で。別れるなら、最初から付き合うなよ。思わせぶりな態度とるなよ。あの時の私の気持ちは、どこに捨てればいいの?」 ちょうど、頼んだ酒が運ばれてきた。私は店員から奪うようにグラスを受け取り一気に飲み干した。 苦い。 喉の奥が熱い。 吐き気と、胸のつかえるような感覚。嫌悪感と、酔いが相まって不快感がピークに達した。 もういいや、店を出よう。会計は先にすませてある。こんな思いをするぐらいなら、くるんじゃなかった。 「ごめん、私帰る。」 「…少し、いいかな。」 席を立とうとした私の腕をつかみ、彼は言った。 「少しだけ、僕の話を聞いてもらってもいいかな?つまらない話だけど、吉田さんには聞いて欲しいかな。」 先程までと変わらない態度だけれども、目が真剣だった。私はそれに気圧された。 「…手短に。」 「良かった、ありがとう。」 彼は私の腕から手を離し、グラスの酒を一口飲んだ。 「…僕も、高校の時に恋愛絡みで苦い経験がある。苦いというか、忘れられない思い出だね。消化できない、モヤモヤとした気持ち。多分、他の人にとっては笑い話。当時の僕にとっては、人生最大の危機みたいなもので、どうしていいかわからなかった。今でも、それを引きずってて、恋愛には少し臆病になってるかな。吉田さんが、どんな経験をして、どんな気持ちを抱いてるかは僕にはわからない。」 彼はさらに続ける。 「僕は、今でも思うことがある。あの時ああなってれば良かったのに、とか。もう少しタイミングをずらせばよかったのかな、とか。当時を振り返って、後悔して、ズルズルと引きずって。でも、あの時の好きだった気持ちを思い出すと、あぁ、やっぱりあの人しかいないなって思っちゃうんだよね。」 「…結局何が言いたいの?」 「吉田さんのその気持ちは、誰かを本当に好きだったっていう証拠そのものだよ。…人を好きになるって簡単なことじゃないと思うんだ。好きにもきっとたくさんの形があって、吉田さんの好きは、代用が利かないものだった。代わりが見つかる程度の気持ちじゃなかった。だから、負の感情もそれだけ強くなった。そう思うと、素敵じゃない?」 「…ごめん、話が見えない。」 「うん、話がヘタクソでごめんね。僕が言いたかったのは、それでいいってことだよ。今のままでいい。被害者ヅラして、逆恨みしたって、いいと思う。だって、それだけ真剣だった。本当に好きだった。それだけでしょ?それだけ真剣に人のことを好きになれる人は、僕は素敵な人だと思うな。他の人から見ると、そうは見えないのかもしれないけど、少なくとも、僕はそう思う。だから、そんな悲しい顔しないで。吉田さんには、笑ってて欲しいな。」 「…なにそれ。」 このモヤモヤを、肯定された。私が、嫌いで嫌いで仕方なかった私を、この人は肯定した。 「ごめんね。上手く伝えられたかわかんないけど、吉田さんには、まず吉田さん自身を好きになってもらいたいな。こんなに人のことを好きになれるんだって、褒めて欲しいな。」 「…あなた、本当に誰なの?」 どうして、私はこの人の名前を覚えてないんだろう。 「あはは、誰だろうね。」 少しして、同窓会の幹事がお開きの挨拶を始めた。二次会の段取りも説明し始めて、あちらこちらで席を立つ人。 「…じゃあ、僕はこれで。話ができて嬉しかったよ。吉田さんも元気でね。」 「えっ、ちょっと。」 彼は、席を立つと二次会に参加するらしいグループの中に紛れて行った。 テーブルに独り残された私は、空のグラスをぼんやりと眺めた。 今晩は実家に泊まった。二次会には参加せず、まっすぐ帰ってきた。本格的に飲み過ぎたようで、衣服もそのままに、親とろくに会話もせずに眠りに落ちた。 そして、夢を見た。 紫陽花。高校の体育館の近くのだ。 誰かいた。けんと君でも、ゆうこでもない。 飲み会の彼だった。 そして、ようやく、思い出した。 私は、彼に告白をされたことがあった。 でも、それは私がけんと君に告白しようと思った次の日だった。 私は、どう返事をしたっけ。 …そうだ、『考えさせて、待ってて』と言ったんだ。 そして、返事をすることなく、忘れた。 紫陽花の苦い思い出の片隅に葬ったんだ。 確か名前は…。 目が覚めた。 重い頭をおさえながら、時計を見て一気に目が覚める。帰りの新幹線にギリギリ間に合うかどうかの時間だった。 急いで身支度をして、親への挨拶もそこそこに、私は実家を出た。 汗だくになりながら、駅のホームにたどり着く。間に合った。 新幹線の座席に腰を下ろし、一息ついた。 ようやく落ち着けた。スマートフォンを取り出して、気になって仕方なかった彼の名前をSNSで検索してみる。 …あった。間違いなく彼だ。 私は、昨日のことを思い出しながら、メッセージを送った。 彼にとって、私は何なんだろう。 嫌な女じゃなかったのか。 苦い思い出と言っていたのに、どうして私みたいにならなかったんだろう。 色んなことを、聞いてみたいと思った。 彼のことを、もっと知りたいと思った。 そして、メッセージは返ってきた。 あの同窓会から、3年の月日が流れた。 今日は、彼が出張から帰ってくる。 私は、重くなったお腹からかすかに胎動を感じ、そっと自分のお腹を撫でた。 外は雨が降りそうだ。 ベランダに置かれた紫陽花の鉢植えは、雨をまちこがれているように見えた。 長年苦い思い出の象徴だった紫陽花も、今ではキレイな花に思えるから、不思議だ。 玄関が開く音。 「ただいま。」 「おかえりなさい。」 私は笑顔で彼を出迎えた。
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