2019.7.19(金)

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2019.7.19(金)

 2019.7.19(金)  今年は梅雨が長くて、犬と散歩に行くのも、曇り空と相談といった塩梅である。そういう訳で本日は午後の十時半を回ってから散歩に出る。ふと海の方を見遣ると、工場のある辺りから太い煙が上がって、垂れ込めた雨雲につながっている。あれは何だろう。火事なのだろうか。一日中立ち仕事をして疲れた心身でぼんやりと思う。犬は草むらに頭を突っ込み、何かいたのだろうか、驚くような速度で飛び上がって駆け出そうとする。火事なら消防車が出動するはずだ、という思いと、もしやまだ誰も火の気に気づいていないのではないか、という二つの気持ちがいちどきに持ち上がる。早く消防車の赤いランプが近づいてこないだろうかとあちこちを目で探りつつ、でも来たらあれが火事だと確定してしまう(ただ単に工場から出ている水蒸気のようなものかもしれないのに)と考えて、一人胸が苦しくなってくる。犬はしきりに顔をふるふると振っていて、こちらはこちらで忙しそうである。ひょっとしたら、先ほど草むらに潜んでいた虫か蛙かに尿でもひっかけられたのだろうか。  ところで、このような文章を書き綴ってみようと思い立ったきっかけの一つに、『富士日記』(著・武田百合子)がある。武田泰淳の妻でもある作者が、富士山の見える山小屋での日々を簡潔な文章で綴った文章群である。なぜこの個人的な記録が本という形で世に出たのかは未だ分からないのだけれども(読み通せば分かるのだろうか)、一人の女性の生活が伸び伸びと、克明に描かれていて読んでいて心地よかった。ガソリンを入れた。さわらの粕漬を食べた。梅の木を植えた。ぽこという飼い犬が足を引きずっているのが治らない。書き留めなければ永遠に忘却されてしまいそうなささやかなことも、ここに残されている。上手くは言えないのだけれど、とてもこの作品に惹かれている。ふと、自分でも書いてみたくなったのだ。散歩の最中に考えたことや思い出したことを細々と書き記してみたい。いつか読み返して、「ああ忘れていた。けれども今思い出した」という様なことがあれば嬉しい。
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