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その場所はグラウンドの片隅にある。
少し高くなっていて、そこからは霊峰富士が切り取ったように臨めた。すぐ向こうに通用門があり、放課後のこの時間、下校する生徒の他、校外にある専用グラウンドやロードに出る運動部の連中が通っていく。先程もフットボール部(サッカー、ラグビー、アメフト)が賑やかに駆け抜けていったし、既にアップを始めた体操部が掛け声も勇ましく、第二体育館へ走っていったところだ。
長峰篤宏は彼らの後ろ姿を見送ってから、空を見上げた。
豊穣の秋、身体の中まで同じ色に染まりそうな空の蒼さだった。
写真部のアツヒロは毎日、この場所で富士山を撮影している。
父親から譲ってもらったデジイチで、いつも必ず同じ場所、角度で。複数枚撮ることもあるが、大抵は一枚だ。よほどの悪天候でなければ雨の日も風の日も続けて、二年の二学期からだから、もう一年以上になる。
おかげで、ココを駆け抜ける連中も一方的に馴染みになった。友人や同じクラスの顔もあるから、ちょっと挨拶したりもする。たまに「なにやってんの?」と聞かれれば、真っ直ぐその先を指差せば誰もが「ああ」と納得した。
アツヒロはそこで、走るとひと言でいっても千差万別なのだと知った。
陸上部トラック競技のメンバーは、専門職は言うに及ばず、跳んだり投げたりする連中もかなり真剣に走る。走力・持久力が重要なバスケと水泳もけっこう熱心だ。一方、校内の外周だけを走るバレーにバド、柔道剣道などの体育館組は、運動部でもいかにもアップという感じ。更には吹奏楽の連中も運動部に混じって走るが、これも意外に真面目だ。肺活量がモノをいうからだろうか?
それぞれ速さや勢いも違って、馬やガゼルのようだったり、ブルドーザのようだったり、修学旅行先の長崎で見た路面電車のようだったり。ラグビー部の連中なんかは水牛の群れみたいだ、と思ったりする。実物を見たことはないけれど。
その中でも、やはり圧巻はロードから帰ってくるときの陸上部長距離組だ。スピードはもちろん、その威圧感というか、存在感と迫力は群を抜く。
アツヒロは彼らとすれ違うたび、トップスピードの新幹線を思い出す。
台風のような風圧と、かえって音を吸いこむような轟音と共に駆け抜ける夢の超特急。ちゃんと距離は取っているはずだが、すれ違う瞬間に思わずよろめいたことも何度かある。
特にその、先頭の右側を走る、
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