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「やぁ、びっくりしたー」
新エースは、ようやくアップを始めたバッテリーと遠ざかっていく陸上部の二人を眺めて、ひと言。
「あの小林穂高に、野球やめろって言う人間が居るんだなァ…」
しみじみと呟く田村に、再度、嘆息しつつ上條が答えた。
「二人目はいないだろうな。よぉっく拝んどけ」
「だねえ」
そうのんびりと受けた田村は、「でも」と首を傾げながら続けた。
「これ、揉めると思うなあ」
○○○さんが知ったら。
と、後半は小声になった。その言に上條が、苦虫をかみつぶしたような、という表現の見本みたいな顔になる。
「黙っとけよ」
という新キャプテンに、
「努力目標で」
と、新エースはにこりと嗤って応えた。
その様子を不安げに見ていた上條だが、表情を改めると、部員を呼び集める。珍客が乱入した分、チームのペースが乱れていた。自分たちには、余計なことにかかずらっている時間はないから、一秒だって無駄には出来ない。冬が勝負だ。
残された機会はもう、あと一度しかない。
ひゅっと風が吹きすぎて、空気がぴん、と音がしそうなほど張り詰める。
冬が、来ようとしていた。
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