プロローグ

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プロローグ

 ───2023年 3月───  落ちた……。  何度探しても、合格者が発表される掲示板に自分の受験番号はない。  二浪してまで臨んだ大学受験だったが、三度目の正直とはならなかった。  去年は受かったはずの滑り止めの大学にまで落ちるというのは、自分でも呆れ返るぐらいのバカっぷりだと思う。  滑り止めの大学を一つしか受けなかったのが失敗だった。  一つしか受けなかったのは去年受かって自信があったのと、受験費用を節約したかったからだ。  俺は予備校含む一切の受験費用をバイトしながら自分で稼いだ。  一浪目は親が金を出してくれたが、二浪目は自分で稼げと言われた。  そして三浪目は家を出て自分でなんとかしろと言われている。  浪人生は体裁が悪いので出ていけってことなんだろう。  だから三浪目の今回は一人暮らしで受験勉強をしなければならない。  でもね……。  正直、一人暮らしで受験が成功するとは思えない。  だって上手くいかないバイトはストレスになっていたし、それが受験失敗の大きな要因だったのだから。  ストレスになるバイトは必要最低限にとどめたかったし、受験費用もギリギリに抑えたかったのだ。  金がかかる一人暮らしともなれば、結果は目に見えてると思う。  滑り止めにまで落ちるという見通しの甘さも含めて、バイトも受験も上手くいかない自分はダメ人間ってことなんだろうな。  自分の馬鹿さ加減に心底ウンザリしてくる……。  まっすぐ帰る気にもなれず、俺は帰り道の途中にある松葉公園という地元の公園に寄った。  ベンチに座り、大きなため息をつく。  はぁ……………。  受験は全滅。  バイトも上手くいかない。  仕事も勉強も底辺レベルのダメ人間だ。  ……そうか。  俺は底辺のダメ人間なんだ。  なんかもう生きるのが嫌になってきたな。  俺みたいな底辺のダメ人間は死んでしまったほうがいいのかもしれない。  生きてても『イイコト』なんてほとんどなかったし『イヤなコト』が圧倒的に多かった。  こんなクソみたいな人生になるのは要するに、俺がダメ人間だからってことなんだろう。  はぁ……………。  これからどうしようか……。  繰り返し出てくるため息をつき、ぐでーっとベンチに寄り掛かる。  来年、もう一度受験を頑張る気にはなれない。  バイトもロクにこなせないダメ人間では就職も無理に決まってる。  ダメ人間にこなせる仕事などないのだ。  うん、明るい未来が全く見えないや。  見えるのは暗い未来だけだ。  体がダルい。  気力も沸かない。  なんかもうマジで疲れてきたな。  この人生ってやつに……。  暗いことばかり考えてたら、いつの間にか空まで暗くなってきた。  雨がぽつぽつと降り始める。  ただでさえ気が滅入ってる所に雨まで降り出すとは。  傘を買うのも面倒に感じた俺は、雨に打たれながらアテもなく歩いた。  風邪ひくかもしれないけど、なんかもうどうでもいい気分だったんだ。  ある交差点まで歩いて来た時、供えられた花が目に入ってきた。  この供えられた花を見ると、いつも思い出す。  この交差点は五年前……いや、六年前だったかな?  中学の時の同級生が車に撥ねられて亡くなった場所なのだ。  亡くなった同級生の名前は藤谷茉奈。  俺の初恋の人である。  可愛かったなあ、彼女は。  藤谷茉奈はクラスのアイドル的存在で、実際アイドルのように可愛かった。  それだけじゃなく人当たりも良くて、男女問わず好かれる所があった。  一緒に美化委員やった事あるのは、俺の人生における唯一の良い思い出だ。  彼女じゃなくて、俺が死んだほうが良かったのかもな……。  俺みたいなダメ人間より、彼女が生きてたほうがずっと良かったんじゃないだろうか。  出来ることなら当時に戻って代わってやりたいよ。  と、バカなことを考えていたら突如───  プォーーーー!!!!!!  という、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた。 「!?」  反射的に顔をあげると雨でスリップしたのか、トラックがこちらへ突っ込んで来るのが見えた。  このままいけばトラックは俺を跳ね飛ばす。  そう思った瞬間、何故かトラックの動きがスローモーションに感じた。  おそらく避けようと思えば、トラックを避けられたと思う。  だが俺は逃げもせず、目の前に迫ってくるトラックを棒立ちで眺めた。  ……………だって、もう死んでもいいと思ってしまったのだから。  というかたぶん、きっと……俺は死にたかったのだろう。  生きてても辛いことばかりだし。  本田滉太、享年二十歳。  くだらない人生に幕を下ろすには、良いタイミングだと思う。  あ、後もう一つ。  トラックから逃げなかったのは、藤谷茉奈がここで死んだというのも関係あるのかもしれない。  初恋と人と同じ場所で死ぬなら、それもいいかな……みたいな?  いま逢いに行くね……みたいな?  なんてバカな感傷が頭をよぎった次の瞬間───  トラックに跳ね飛ばされた大きな衝撃により───俺、本田滉太は意識を失った。 * * *
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