スピンズ。

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「私に触ってください」  そう言って彼女は俺に迫ってきた。表情は真剣そのもので必死なのが伝わってくる。なんだかいやらしいことをしている気分だ。無論、俺たちは睦み合うような関係ではない。これは男女の甘い戯れではなく、リハビリの一種だ。邪な感情を外に追いやって彼女に手を伸ばす。彼女は反射的に手を引っ込めてしまった。言葉と体がちぐはぐだ。 「ごめんなさい。次こそは……」  再び差し出した手は小刻みに震え、体は緊張で強張っていた。  彼女は人に触れたくても触れることができない。そういう病気だ。 そんな彼女が他人と繋がれる唯一の方法が物語を書くことだった。  溢れ出る感情を言葉として紡げば孤独を暖められる。  他人と分かりあえなくても、自分で自分を抱きしめられると彼女は言っていた。  彼女の弱さと強さが俺に生きる道を示してくれた。 これは創作を通して育んだ恋と絆の物語だ――。
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