第二章

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第二章

 ここは編集部にある打ち合わせ用のブース。  今は明里先輩と二人で打ち合わせ中だ。出来立てほやほやの殺戮の刹那の第二章を読み終えて、俺は感動のため息をつく。 「はあ……面白かった。早く続き読みたいです」 「でしょでしょ? 今回もアツいよね! 秋月先生天才だよね!」  明里先輩は大興奮だ。他の編集者が咳払いをしながら通り過ぎる。 静かにしろ、という意味だろう。明里先輩はきまりが悪そうに肩を竦めた。 気を取り直して本題に入る。 「で、挿絵で描いてもらうのはこのバトルシーンにしようと思うんだ。秋月先生も由乃君が平気そうならぜひお願いしたいって」 「合成獣と戦うシーンですか?」 「そう。合成獣は無理に描かなくてもいいよ。なんかこう刹那がダークシューズで滑走して、敵を翻弄しながら戦っていく感じを臨場感たっぷりで!」 「これはまた難しそうな要望を……」 「大丈夫。由乃君なら出来る! 動きのある絵を描くのが難しいのはわかってるけど、見せ場のシーンだからどうしても絵がほしいのよ」 「わかりました。やってみます。少年漫画でも読み込んで研究しようかな」 「漫画いいよね。いつか殺戮の刹那も漫画にしたいなー」 「漫画化すれば映えそうですよね。バトルモノだし」 「今はラノベからコミカライズするのも珍しくない時代だしね」  ということは殺戮の刹那も人気が出ればコミック化するかもしれない。などと他人行儀に思っていると着信が入る。実家の両親からだった。 「出なくていいの?」 「どうせ就職が決まったかどうか聞かれるだけなんで良いです」 「両親には連載のこと伝えてないんだっけ? 聞いたら喜ぶと思うのに」 「逆に怒られそうな気がします。就活ほっぽって何してるんだって……いや、ほっぽってないんですけどね。昨日も面接受けてきましたから」 「どうだった?」 「それが手応えありなんですよ。俺みたいな真面目な人材が欲しいって言われちゃいました。丸川商社っていうんですけど……」 「あ、そこの会社ねー」  噂をすれば丸川商社から電話が掛かってくる。結果は不採用だった。 「あんなに愛想よくしてくれたのに……なんで」 「志望者みんなに同じこと言うんだって。だからぬか喜びさせられるって私の頃から有名」 「俺を褒めてくれた面接官の言葉だけは嘘じゃないって信じたいです」 がっかり肩を落としていると、ブースに眼鏡をかけた小柄な女性が入ってきた。 「橋本ー。郵送物仕分けしてたらホタル嬢にファンレター来てたよ」 「わざわざありがとうございます。東雲さん」 「え、あなたが東雲さん?」  東雲さんとは電話口で明里先輩の胸を揉んでいた女編集者である。 「へえ、君が染谷君かあ。草食男子だねえ。いかにも童て……」 「それ以上は言わせませんよ」 「まあまあ今度ゆっくり話そうじゃないか。はい、橋本。ホタル嬢によろしく」 「はい。確かに受け取りました」  東雲さんがブースから出ていったことを見届けると、明里先輩は封筒を開き始めた。 「って、なんで開けるんですか!」 「もしも誹謗中傷が書かれてたら秋月先生のモチベーションが下がっちゃうじゃない。せっかく今調子いいのに!」
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