アイリッシュパブ

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「○✕▲□」  突然、カウンターを空けて2つ隣に座っていたグループにいた人に声をかけられた。彼は白髪の、おそらく初老ぐらいの年のアイルランド人だった。口ひげが開いたシャツの胸元の辺りまで伸びていた。皺の寄った皮膚に浮かんだ鎖骨の上でひげの先が揺れている。白いひげと対照的に、酒に酔って顔は赤らんでいるのだった。彼は、僕たちの頼んだギネスを指差しながら何やら言っているようだった。しかし、海外に来るのが初めてで、英語力のない僕たちは2人とも、彼が何を行っているのか分からなかった。 「○✕▲□」  彼はおそらく、また同じことを言った。青い目をキョトンとさせながら、こちらを見ている。腕を組んで首を傾げていたゴッピーが、突然明るい声で答えた。 「イェス!イェス!デリシャス、デリシャス。サンキュー!」  老人はニコリと笑うと、グッド、と言って親指を立てた。そして、また彼の仲間との語らいの輪に戻っていった。ゴッピーはこちらを向くと、僕に向かって鼻高々と言った。 「多分、うまいだろ、て言ったんだぜ。」  しかしそのゴッピーの自慢げなセリフは、突如僕たちの後ろからかけられた別の言葉によって否定されたのだった。 「ギネスは、ゆっくり飲むともっと美味しいよ、て言ってたみたいですよ。」
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