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1. 開幕
ある日、大学の友人に映画に誘われた。なんでも「名場面・名台詞体験上映会」なるものが開催されるらしい。内容がどんなものかは想像に易いが、貰えるものは貰っておこうと、その映画に行くことにした。
当日僕は彼、Yと映画館の前で合流した。この映画館は学生の頃にYとよく来た場所だった。
「おいY、この上映会って一般公開してないんじゃないのか。あそこにいるのって政治家じゃないか」
その映画館に並んでいる人たちはみな、何かしらの界隈で名が通っている人ばかりだった。
「まあ、そうだが気にすることはないだろう。俺たちも遜色なくオーラがあるさ」
Yは笑いながら僕を肘で小突いた。Yが堂々としているのに僕だけ周りを気にしているのは癪だったので、大物作家のような顔でYと談笑することに努めた。ふとYがどのようなコネでこのチケットを手に入れたか気になったが、またYに笑われそうだったので考えないことにした。
数十分後、映画館の席に座った僕たちはまだ暗いままのスクリーンを見ながら、談笑を続けていた。僕は周りにいる有名人たちを目で追うのに必死でYの話など耳に入ってこなかったが。
「それでそのときお前が・・・、おい聞いてるのか。俺とお前の思い出話をし
てるんだぜ?ちょっとは乗ってくれよ」
「あ、ああ悪い。Yの話はつまらないからな、聞いてなかったよ」
僕はさっき入り口でYにされたように肘で小突いた。もちろんいやな笑みを浮かべながら。
「ったく、しらけるぜ・・・」
Yがニッと笑って、二人がスクリーンに目を向けた時に上映開始のブザーが鳴った。
「さ、始まるぜ」
Yが椅子に深く腰掛けながら言った。僕もYと同じように深く腰掛け足を組んだ。
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