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 ヴィンランド合衆国の、ほぼ中央に位置するある州に「ウォーター・ヒル」という人口5万人ほどの町がある。ウォーター・ヒル市の規模は小さいが、この町は世界的に有名な飲料メーカー『オイシイミズ・カンパニー』という企業の本社を擁している。 『オイシイミズ・カンパニー』の創業者であるブルース・ギブスン氏は、東洋の神秘の国・ヤポニ国に並々ならぬ関心を持っていた。そのため、この社名もヤポニ語から取って名付けたそうである。  その『オイシイミズ・カンパニー』に勤務するパトリック・イーグル氏は、ある日、上司からヤポニ国への出張を命じられた。 「えっ!?私がヤポニ国へ出張ですって!?」  パトリック氏は、素っ頓狂な声を上げる。 「そうだ。わが社の製造する『オチャコーラ』の売り上げの、最も多い国がヤポニ国だからな。そこでキミに、わが『オイシイミズ・カンパニー』の新商品『オシルコ・アマイスープ』を、現地法人の重役連中にプレゼンテーションして貰いたいんだ」 「りょ、了解しました!私もミスター・ギブスンと同様、ヤポニの文化には並々ならぬ関心を抱いていますので、喜んで引き受けましょう!」 「おいおい、キミィ、ヤポニ国には、物見遊山で行くのじゃないのだよ。あくまでもビジネスで行くのだから、その点を忘れないようにしてくれたまえ。まあ、通訳も付いて行くが、基本的なヤポニ語を、今から覚えておいた方がいいだろう」 「そうですね。では、今日の退社後に行きつけの古本屋で、ヤポニ語の基礎会話のテキストを購入します」  その日の退社後、パトリック氏は馴染みの古本屋に入店し、30年前に刊行されたヤポニ語のテキストを3ドルで購入した。 「あんた、ヤポニ国に行きなさるのかね?」  古本屋の店主は言う。 「ええ、私がヤポニ国の『オイシイミズ・カンパニー』現地法人で、新商品のプレゼンテーションを行うことに決まりましたから…」 「ふうん…。でも、こんな古いテキストは役に立たんかもしれんぞ」 「でも、言語が全く理解出来ずに行くのも心細いでしょう。それに、ヤポニ国ではヴィンランド・イングリッシュがほとんど通じないそうですし」 「まあいい。あんたがヤポニ語を勉強したいのなら、わしは止めぬ。だが、後悔してもわしは知らんがな…」  古本屋の店主は、ニヤニヤと笑いながら言う。 「?」  パトリック氏は訝しく思ったが、ともあれ、彼はテキストを購入したその日からヤポニ語を頭に叩き込んでいった。
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