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二カ月後、パトリック氏はヤポニ国へ向けて旅立った。
10時間以上のフライトの後、彼はヤポニ首都空港に降り立つ。
「さあ、『オイシイミズ・カンパニー』現地法人でのプレゼンテーションまで、まだ一週間の余裕がある。それまでヤポニ国首都・トウケイを、観光してみよう!」
パトリック氏はそう独りごとを言う。
ところで、彼はゲール系移民とヴィンランド先住民族の血を引いている。ゲール人の宗教はカトリックだが、彼らの信仰は多分に土着信仰と習合している。また、ヴィンランド先住民族は、自然現象を「精霊」に見立てて信仰している。パトリック氏も、子どもの頃から自分の両親や祖父母によってヴィンランドのマジョリティの信仰(プロテスタント)とは異なる、独自の信仰を教え込まれてきたのである。彼がヤポニ国出張を命じられたのも、この国が「独自の多神教を信仰する国」ということと関係があるのかもしれない。
ともあれ、パトリック氏は空港から出てヤポニ国の空気を吸ってみる。
街を歩いてみて、パトリック氏はふと気付いた。街の中の看板類は、この国固有のミミズののたくったような文字ではなく、漢字の一部を切り取ったような、直線的な文字で書かれている。彼は、この文字も漢字の類と思ったが、どうやらそうではないようである。何故なら、パトリック氏の知っている漢字すら見当たらなかったからである。
彼は訝しく思った。
(まあ、とりあえず、観光でも愉しもう。そうだ、皇宮に行ってみるか)
パトリック氏は、ヤポニ国首都随一の観光スポットである皇宮に行こうと思い、道往く人に道を尋ねる。
「スミマセン。コウグウニハドウイケバイイノデスカ?」
ところが、その人はこう応える。
「アヌ ヤ?カニ アナク シャモ・イタク エランペウテク。ウタリ・イタク ワ・エンコレ」
「What?」
パトリック氏は目を剥いた。その人は、全く理解できない言葉を発したからである。
その後、何人かの人に道を尋ねたが、誰もが同じような奇妙な言葉を発し、全く理解できない。結局のところ、
「カニ アナク ポンノ ヴィンランド・イングリッシュ エラムアン」
と言った人物が、話が通じたので、その人にヴィンランド・イングリッシュで道案内をしてもらった。
腑に落ちないながらも、パトリック氏は皇宮の見学を終えた後にカフェに入り、客の会話に耳を傾けてみた。ちなみにカフェのメニューにはヴィンランド・イングリッシュも併記されていたので、彼は指さししてエスプレッソを注文した。
「フナク ワ エ・エク?」
「フラヌイ ワ ケ・ク」
「エ・レヘ マカナク アン?」
「ペナンぺ セコロ ク・レヘ アン」
「カニ ペツ タ スプン キクレッポ ペライ」
etc.etc.
パトリック氏は、カフェの客がヤポニ語とは全く異なる言語を話しているのを見て(否、聴いて)、訝しく思った。
「こりゃどういうことだろう?ヤポニ語は通じないし、道往く人もカフェの客も、聴いたことのない言語を喋っているし…」
頭が混乱してきた彼は、取りあえずホテルに戻る。
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