9人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
夏が終わりに近づき、秋の風を感じる季節になってきた。
家でご飯を食べた後、ゆっくりテレビを見ていると、台所から茶碗洗いを終えた響が隣に座る。
鞄から取り出し、1枚の紙を見せてきたんだ。
「あのね、これどう思う?」
「ん?」
紙には、北大図書館 司書補佐募集 と書かれていて、臨時職員募集の用紙だった。
あぁ、就職か。
給料やら、保障、有給やら色々載った紙をじっくり読む。
北大の図書館といえば、大学生だけでなく、一般の人も借りに行ける公的な図書館だ。
「司書はね、公務員なんだけど、補佐は準公務員なんだって。司書は空きが無いんだけど、補佐は募集してるみたいで。試験もあるんだけど。」
「へぇ。」
「香さんが、大学でこの用紙見つけて、持ってきてくれたんだ。私にどう?って。」
北大の図書館か。
俺も高校生の時に、北大の図書館に本を借りに行ったことが何度かあったな。
膨大な本の数に圧倒された記憶がある。
だけど、借りたい本はいつも大学生に借りられていて帰ってきたんだっけな。
うろ覚えだが、そんな記憶があって。
その事を響に告げると、驚いている。
響は、この前初めてその場所へ行ったらしい。
そして、その場所がすごく気に入ったようで。
「すごい本の数なの!建物も大きくて、中は静かで、雰囲気がなんかいいなと思って。」
嬉しそうに、そう話す彼女。
「働きたいのか?」
「募集人数3人だから、落ちるかもしれないけど。」
紙には募集人数3人と書いてある。
準公務員となれば、狭き門かもしれないが、響は受けようとしてるみたいだ。
「働いてから、また試験を受けたら空きがあれば司書になれるって。」
「へえ。」
色々先のことまで考えている響に関心しつつ、
「いいと思うぞ?」
そう答える。
「小論文と、筆記の試験があるから、勉強しなきゃならないんだけど。」
試験は11月と書いてある。
あと2カ月か。
「大丈夫なのか?。バイトもしてて。」
勉強する暇があるのかと、心配してしまう。
「辞めようと思って。バイト。」
そこまで考えているのか。
まあ、確かに就職活動もあるし、バイトしている場合じゃねぇか。
「決めたならいーんじゃねえか?」
響が決めたことなら、俺がとやかく言う事もない。
どんな事でも、応援する気持ちはある。
第1希望はここらしいが、他にも2社考えていると言う響。
今バイトをしている大型書店も正社員を募集しているようで、受けるつもりらしい。
そうか。
もうそんな時期か。
響も本格的に就職活動に、動き出したようだ。
「11月まで本気で勉強しなきゃ。」
真剣な顔でそう話す彼女を見ていると、こうやって会うことも、それまではお預けになりそうだなと、ふと思う。
就職まで集中して勉強させてやりたい。
俺も三年の担任を持っていて、これから忙しくなる時期だ。
「受かるといいな。」
そう言ったのは紛れも無い本心だ。
響にとって、人生の大切な節目だ。
響の思う道に進めばいい。
それが俺の願いでもあるんだ。
就職が決まったら、響の親に挨拶に行こうと思っている。
いよいよ、その時期にさしかかってきているなと、この頃感じていた。
俺もきちんと覚悟を決めないとならない。
響ももうすぐ20歳だ。
就職が決まった後は響の誕生日がくる。
20歳の誕生日は一緒に祝ってやりたい。
隣で色々考えている彼女も、もう20歳になるのか、、、。
俺たちも、もう、付き合ってから三年になるのか。
時間が経つのは早い。
この前短大に入ったかと思っていたら、もう就職だ。
卒業して、就職して、社会人になって、か。
大人になっていくんだな。
そう思うと感慨深いものがこみ上げる。
いつまでも側で見守っていたい。
その気持ちは変わらない。
今までもそうだったように、これからも、ずっと。
響の隣にいるのが俺であればいいと、ずっと願っている。
隣に座る響を抱き寄せる。
「コウ?」
唐突な俺の行動に、少し驚いた表情を見せる響。
「ずっと俺の近くにいろよ。」
しばらく会えないかもしれないと思うと、余計に愛おしく感じて。
離れないでほしい。
俺はお前がいないと、ダメなんだよ。
俺にはお前の存在が必要なんだ。
それを確かめるように、強く抱きしめた。
「ずっと側にいるよ。」
響の言葉に、俺の中の独占欲が掻き立てられる。
しばらく会えないのはきついな。
でも、これからの俺たちの為には必要な時間なのか。
自分でそう納得させて、彼女の唇を塞いだ。
最初のコメントを投稿しよう!