秋の風

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「響ー!おはよー!!」 ちいちゃんは朝から元気だ。 「例の図書館受けることにしたのー??」 最近の話題は、就職活動がメインになりつつある私たち。 「うん。受ける事にした。」 「そっかー!受かるといいね!」 ちいちゃんはバイト先のコスメショップで、そのまま正社員として働くことが決まっている。 美容関係の仕事をしたいと言っていたちぃちゃんは、念願が叶って、毎日楽しそうだ。 今のバイト先も楽しそうだし。 ちいちゃんの就職先が決まって、私も嬉しい。 さくらちゃんは、二年間遊んだからと、本腰を入れて就職活動中だ。 さくらちゃんは金融系を狙っているみたいで。 バイトをせずに毎日自由な生活を送って来たさくらちゃん。 就職に対してもそんなに積極的じゃないのかと思っていたんだけれど。 さくらちゃんは、毎日積極的に動いていて。 その変わりように日々驚いている。 さくらちゃん曰く、「働いたら、お金が大事なんだから、これからは自分でプランニングしていかなきゃ!」と最近毎日のように言っていてる。 ファイナンシャルプランナーの資格も取りたいって意気込んでいるくらいだ。 方や、美香ちゃんは、お父さんの会社に入社が決まっている。 美香ちゃんのお父さんは不動産会社の社長さんで、子会社を沢山持っているみたい。 美香ちゃんは、社長令嬢で、いわるゆるコネ入社というレールが入学の時から当たり前のように敷かれていた。 美香ちゃんもそれは仕方ないと割り切って考えているみたい。 みんなそれぞれ「就職」というものを考えていて、私もやっと波に乗って動き出したというところだ。 まだまだ先だと思っていたことが、徐々に現実味を帯びてきている今日この頃。 「バイトいつで辞めるのー?」 ちいちゃんが聞いてくる。 「今週末で働いて最後だよ。」 辞める話は店長に伝えてある。 店長に、もしかしたら正社員でお世話になるかもしれないと言ったら、大歓迎と言ってくれた。 「バイトの人たちと会えなくなるの寂しいね。」 「、、うん。」 そうなんだ。 せっかく仲良くなれた先輩たちと離れてしまうのは寂しい。 香さんに、その彼氏の中川さん。 この前浅葱先生を紹介した真紀さんに、 そして、同い年の斎藤くん。 このメンバーでは、バイト終わりにご飯を食べによく行っていたんだ。 バイトを辞めてしまうと、そんな繋がりも無くなってしまうのかなぁと思うと、少し寂しさもある。 けれど、みんな北大生だ。 もし、私が北大の図書館で働くことになったら、、、。 きっと、また会える。 そうなればいいなぁ。 そうなりたいなぁ。 そう思うから、就職の試験を頑張ろうと力が入る。 絶対に受かりたい。 広大な敷地の中にある、大きな図書館。 併設されたカフェもあって、色んな人が出入りする場所。 緑に囲まれた静かな空間で、本に囲まれて一日を過ごせたら、幸せだろうな。 「とりあえず試験まで頑張るよ。先生も、試験が終わるまで、勉強に集中しろって言って応援してくれてるし。」 ちぃちゃんにそう言って、自分を追い込む。 「じゃあ、伊藤とそれまで会わないの!?」 ちぃちゃんに核心を突かれてしまう。 「、、うん、まぁ、終わるまでは、あんまり会えないかな。先生も受験生の担任だから色々忙しくなる時期だし、、。私も本腰入れなきゃならないし。」 そう言うと、ちいちゃんが目を丸くして驚いている。 「試験まで2カ月あるじゃん!2カ月も!?」 そうだよね。 2カ月、、、は確かに長い。 そのつもりではいたけれど、、、。 「頑張れって言ってくれてるし、そのつもりでいるけど、、たぶん無理だと思う。」 正直な気持ちをちいちゃんにぶつける。 きっと、会いたくなるよなぁ。 電話やメールだけじゃ、きっと無理なのはわかっている話で。 もう気持ちは揺らいでいる。 「響ー、無理しないほうがいーよー?」 ちいちゃんが心配そうに顔を覗く。 ちいちゃんからのアドバイスを素直に受け入れる。 「そうだね。」 早く就職が決まって、先生に一安心させてあげたいなぁ。 早く先生と肩を並べて歩けるようになりたい。 社会人になれば、少しは先生に近づける気がしている私。 早く大人になりたい。 社会人になって自立して、、、それが大人になるっていうことなのかわからないけれど。 20歳の誕生日を前にして、最近色々考えるようになってきたんだ。 社会人になったら、先生と同じ目線で考えられるようになるのかなぁなんて。 何かが少しずつ変わっていくのかもしれないなぁなんて。 漠然としていて、まだわからないけれど。 試験までの二ヶ月を考えると確かに長くて。 勉強に専念するって言ったことを、早くも後悔している私。 無理だよなぁ。 会いたいもんなぁ。 でも、とりあえずは目先の試験だ! 頑張らなくちゃ!! 20歳を目の前にして、現実と向き合う自分がいる。 短大なんて、この前入学したばかりだと思ってたのに、もう、就職だもん。 時間が経つのは早いなぁ。 授業が始まるベルが鳴る。 ちいちゃんは「じゃあ、後でね!」と言って焦って自分の席へと向かった。 ふと外を見ると、この前まで緑で覆われていた木々が少し紅く染まりかけていた。 秋がくるなあ。
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