秋の風

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帰りの車の中で、先生が、唐突に聞く。 「そういえば、おまえ、川合と連絡取ったりしてんのか?」 「浩介?たまにメールしたりしてるよ?。」 浩介は今年の春、一年浪人して、念願の東大に合格したんだ。 今は、東京で一人暮らしをしている。 一年間予備校に通って勉強していた浩介。 今年は受かればいいなとは思っていた。 だけど、まさか本当に東大に受かるとは思ってなくて、合格したと聞いた時は、ちいちゃんとすごく驚いたんだっけ。 「これが俺の実力だ!」って偉そうに言ってた浩介。 春のことを思い出すと少し懐かしい。 東大って、すごいなぁと思うけど。 入学してからは、浩介からは自慢のようなメールが度々来ている。 東大の写メやら、東京名所の写メやら、この前はディズニーランドの写メも来た。 入学してから、遊んでるようなメールばかりだから、本当に勉強しているのかは謎。 そんな話を先生にする。 「遊んでんのか、あいつ。」 そう言って笑っている先生。 「勉強してるというより、東京の生活を満喫してるっぽいけど。どうしたの?浩介が何かあったの??」 私が聞くと、先生から、意外な事を聞く。 「中島先生、来春うちの学校辞めるんだとよ。」 「え!?」 中島先生辞めちゃうの? びっくりしていると、先生はもっと衝撃な事を言う。 「東京に転任するんだとよ。」 「、、、えー!?東京???」 東京って、まさか、、、。 「東京って、浩介いるから??」 「だろうな。そういう事だろ。」 ええー!??? 付き合っているのはなんとなくはわかってはいたけれど、浩介もはっきり言わないし。 東京に行ってからも、2人が続いているのかどうかは謎だったから、先生の言葉にびっくりしてしまう。 「さっき学校で、辞めて東京行くって聞いてよ。俺も驚いた。」 車を運転しながら先生が言う。 中島先生がそんなことするなんて、、、。 私もびっくりだ。 「中島先生って、そんなことするような人じゃないよね?」 中島先生が、まさか浩介について東京に行くなんて、考えられない。 そんな大きな決断をするなんて。 「俺もそう思ってた。」 「どうしちゃったんだろう。何かあったのかな?」 「さぁな。」 「中島先生が行ったら、浩介、もっと勉強どころじゃなくなるんじゃないの?」 そう言うと、先生が笑う。 「そーかもな。でも、いーんじゃねえの?誰かの為に尽くす人生もいーかもしれないって中島先生言ってたしなぁ。」 「え!?そんなこと言ったの?」 中島先生が、そんな事を言うなんて、、、。 驚きだ。 「けっこう、まじめに考えてるんじゃねえの?。」 先生は笑って言う。 そうか、、、。 中島先生をそんな風に変えたのは、浩介なのかな。 「うまくいってるんだね。浩介何も言わないから、全然知らなかったよ。」 「まぁ、中島先生も色々考えて決めたんだろう。相当な覚悟がなきゃできねぇよ。受け入れる度量もなきゃ難しいと思うし。川合もなかなかやるな、あいつ。」 先生はそう言って笑っている。 「ちいちゃんに言ったらびっくりするね。」 「だろうな。」 今日の先生は、よく笑う。 やんちゃな子供みたいで、その笑顔を見ていると、なんだか嬉しい気持ちになる。 中島と浩介の話を聞いて、私も今日聞いた話を思い出し、先生に言う。 真紀さんが送別会で言っていた話だ。 「そういえば、浅葱先生もうまくいってるみたいだよ??」 真紀さんと浅葱先生の話をすると、先生は少し驚いた表情を見せた。 「浅葱もあれから何も言ってこないから、また振られたかと思ってたんだけどな。うまいことやってんのか、あいつ。」 「真紀さんも嬉しそうに話してたから、もしかしたら、付き合うかも。」 真紀さんには幸せになってほしい。 うまくいってほしいなぁ。 「いーんじゃねえの?。浅葱もいい奴だし。それにしても、なんで俺に何も言ってこないんだ?」 少し不服そうな顔をする先生。 「なんでだろうね。恥ずかしいのな?」 「恥ずかしいって。いくつだよ、あいつ。」 そう言ってまた笑う先生。 久しぶりだからかな。 先生の笑顔を見るたび、ドキドキしてしまう。 こうやって会って話をしていることが、とても幸せに感じるんだ。 先生との話は尽きない。 まだまだ一緒にいたい。 でも、もう車は家の近くまで来ていて。 近くの路肩で車を止める先生。 「送ってくれてありがとう。」 「勉強頑張れよ。」 そう言って、先生が私の頭をポンポン優しく叩く。 「また会いたくなったら、会いに行ってもいい??」 まだ試験まで1カ月ある。 また1カ月会えないのは寂しいし、嫌だ。 そんな我慢を出来る自信もない。 私がそう言うと、先生は真剣な眼差しで私を見つめる。 「いいよ。俺も我慢できねぇし。」 そう言って、少し強引に、私の体を引き寄せてキスをする先生。 2人の想いを確かめ合うように、車の中で、深い口づけを交わす。 もう少しこのまま、、、。 早く試験が終わればいい。 あと、1カ月、、、。
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