秋の風

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家の郵便ポストを毎日開ける日が続く。 今日こそは入っているはず、、、。 あれから一か月はあっという間に過ぎ、先日就職試験を終えた。 論文は予想通りの題目で、短大の先生から練習を受けていた甲斐があった。 筆記もまずまずの出来だったように思う。 だけど、試験会場には20人近くの人がいて。 この中で3人、、、と思うと、とてつもなく緊張したんだけれど。 とりあえず無事に試験は終わった。 そして、結果の文書が届くのを毎日待っているんだ。 もうそろそろ届くはずだ。 きっと落ちたんだろうなとは思っている。 期待はしてないけれど、結果が気になって仕方ない。 今日もいつものように郵便ポストを覗く。 するとと一通の封筒が入っていた。 市役所からの文書だ。 結果が来たんだ!! 家に入って、ふうっと一つ深呼吸をする。 「響、来てたかい?」 お母さんも毎日気にしていたみたいで、心配そうな顔をしている。 「うん。きっと、これがそう。」 封筒を持っている手が少し震える。 こんなにドキドキするのは試験以来で。 「早く開けちゃいなさい。」 お母さんに促されて、ハサミで封を切った。 封筒の中身を恐る恐る開く。 「合格通知書」と書かれている用紙を見て、一瞬息が止まった。 「あら、合格したんでしょ!!」 隣で覗き込むお母さんも、びっくりしている。 合格!? 本当に?? 信じられない気持ちで用紙をじっと見つめる。 受かったの?私。 その用紙には北海道大学併設図書館臨時採用と書かれていて、司書補佐勤務就任という文字が目に入った。 「響、よかったねぇ!!おめでとう!」 お母さんが、そう言ってくれる。 お母さんのその言葉で、受かったんだ、、、とやっと実感する私。 「受かっちゃった。」 「なにぼーっとしてるの!よかったねぇ。」 お母さんが隣で笑っている。 信じられない。 20人近くいた人達の中から、選ばれたことが信じられないんだ。 きっとダメだろうと思っていたから。 「あんたも、春から社会人ね。」 お母さんが言う。 春から社会人、、、。 そうか、社会人になるんだ、私。 働くんだ、、、、 。 未だに信じられない気分でいる。 「ちいちゃんに電話してくる!!」 そう言って二階の部屋へ駆け足で階段を登った。 電話するのは、ちいちゃんではなく、、、。 真っ先に伝えたい相手へ電話をかける。 夕方5時。 授業は終わってる時間だ。 電話をかけると、すぐに声が聞けた。 「もしもし??コウ??」 「おう、どうした??」 「あのね、受かったよ!!!」 真っ先に伝えたい。 私の声はいつもより高かったと思う。 「え?」 きっと落ちたかもしれない。 試験が終わってから、先生にはそう話していたから、先生も驚いたんだと思う。 「図書館!!合格したよ!!」 「マジで??」 先生の声も大きい。 「うん!!今ね、合格通知が届いたの!」 手に持つ合格通知の用紙が少し汗ばんでいる。 「そうか。決まったのか。おめでとう。よかったな。」 電話口から先生の嬉しそうな声を聴くと、より実感してきて。 「うん!」 こうやって合格を伝えられて本当によかったと思う。 「就職祝いしなきゃな。」 先生が言う。 「そんなの、いいよ!」 就職祝いだなんて、おめでとうって言ってくれただけで満足してる私。 「誕生日もくるだろ。」 先生は言う。 そうだ。 就職の事で頭がいっぱいだったけれど、気づけば再来週、誕生日だった事に気づく。 「覚えててくれたんだね。」 自分でも忘れていたくらいなのに、、、。 先生の気持ちが嬉しい。 「当たり前。20歳の誕生日だからな。」 そう、再来週、私は20歳になるんだ。 先生はちゃんと覚えててくれたんだ。 「就職祝いも兼ねて、誕生日、一緒に過ごそう。」 先生がそう言ってくれる。 「ありがとう。」 嬉しいな。 先生と一緒に過ごせる20歳の誕生日。 就職も決まって、こんなに幸せで、少し怖いくらいだ。 「これで一安心だな。おまえもいよいよ社会人か。」 「うん。ちゃんと仕事できるかな?」 決まったのは嬉しいけれど、この先を考えると少し不安だ。 ちゃんと覚えて、仕事をして、社会人ができるんだろうか。 「大丈夫だろ。」 先生の声は笑っているようだ。 「まぁ、最初は大変かもしれないけど、慣れていくさ。」 先生は言う。 「そうかなぁ?」 まだ信じられない気持ちもあって、社会人になる自分が想像できない。 でも、確実に道は開けている。 就職を迷いだした夏から、もう時は流れて秋から冬へと向かっている。 この二ヶ月、色々あったけれど。 先生と会えない時間も長くて、辛かったけれど、これからは明るい未来が待っているような気もしている。 そうだといいな。 先生と電話を切って、また合格通知に目を通す。 これからだ。 これから私の社会人生活が始まるんだ。 先生と一緒に歩いていきたい。 肩を並べて、同じ目線で。 そうずっと思い描いていた事が叶うんだ。 秋の風も、もう冬の匂いがし始めている、この季節。 やっと私は一歩自分の足で歩き出せた気がしていた。
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