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「あれば、いいとは思いますけど」
「俺の中で、春ってinnocent worldなんだよ。ただの盲信だけど。それに」
言葉が止まった瞬間、秦さんに肩を抱かれる。
それはとても強く、強く、痛い。
「その世界にはいつも、佐野が真ん中にいるんだ」
ああ、今か。
と思った。一瞬にして、秦さんに真っ赤な光が浴びせられる。
本当に真っ赤に光っているのではなくて、私の目の中だけなんだろうけど。
ああ、火がついた。
私の心に、火がついた。
好きになってもいいのだろうか。
私は、秦さんを好きになってもいいのだろうか。
「秦さん」
抱かれた温もりと痛みを感じながら言う。
「私のinnocentは、秦さんかもしれません。私はとても不純物みたいな人間だから、だから」
唇が重なる。
温かい、秦さんの唇。
離れることを忘れたように重なる唇の隙間から漏れ出した吐息は、唯一の無実に感じられた。
「好きです」
言いかけて消えた言葉が聞こえたように、秦さんは唇の重なりを激しくさせる。
火がついた心、というのはこんなに熱く苦しいのだと初めて知った。
きっと最後の恋になるのだ。
ううん、もしかしたら、私はこの恋が初恋なのかもしれない。
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