innocent

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私の職場は、よく残業がある。 人に説明しても1割も伝わらない変わった職業ではあるけれど、私は自分の仕事が好きだった。 日々を消耗していく中で唯一、仕事をしている時がとても現実的で、 「ああ、生きているのかな」 と思える瞬間だった。 だから、どれだけ残業しようとも、私はさほど苦にはなっていなかった。 「あれ?佐野さん、こんな時間まで何してんの」 嵐のように恋をして、別れた例の営業課の男性が声をかけてきた。 名前、なんだっけ。 「あ、そうなんです。ちょっと」 「手伝えることある?って、ないか。ちょっと待ってて」 営業課の人々は皆、こちらの返答を聞く前に結論を出し、次の行動をしている。 こういう所作はきっと、職業病なのだ。
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