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名前を思い出せない男性は、足早に戻ってきて、缶コーヒーを渡してくる。
なんとも、爽やかな笑顔で。
「すみません」
「いいのいいの。残業してる時ってさ、缶コーヒーうまいんだよね!」
ぶら下がったIDを見ると【谷川】と書かれていた。
谷川、だったけ。自分の記憶の曖昧さに驚く。
「谷川さんも、残業ですか?」
「うん。まぁ、今に始まったことじゃないけど」
笑う谷川さんは、全く失恋したてとは思えない。
谷川さんは、こんな風に爽やかに人と話せるからきっとすぐに恋愛ができるのだ。
女性からすれば、すらっと高身長で塩顔男子の谷川さんは、そりゃあ魅力的だろう。
でも、全然続かないのは、どちらのせいなのか。
それとも、恋愛をした時はお互い様なのか。
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