第1章 明日香と菜摘

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翌日 駅前13時 あんなに言っておきながら、私が遅刻してしまった。 駅を降りるとむくれた顔の彩矢が改札口の出口で待っていた。 「彩矢、ごめんね」 「10分遅刻よ!私は30分前に来てたのに」 「ごめんごめん」 と謝る。 これ以上言うと逆切れする事を分かっていたので、遅刻の事は言わなかった・・・が」 胸を触られた感触が伝わる 「彩矢!」 「遅れた罰よ。これぐらいいいでしょ!」 「私の触るより、自分の触った方が触りがいあるでしょ!」 「それは、そうなんだけど・・・」 「そこは、少し否定しなさいよ」 「それにしても、なかなか発達しないわね」 「一人で行くから、彩矢は帰りなさい!」 「冗談よ冗談」 そんな会話をしながら、菜摘さんの家に向かう。 彩矢が 「ねえ、明日香は菜摘さんの黒い影を消せるの?」 「う〜ん。分からないのよ。能力者では無い人が、黒い影が憑いてしまった時は、消せたんだけど。菜摘さんの場合は、他人から受けたのでは無く、自分の感情で出来た黒い影だから、私で直せるかやってみないと分からない。」 「そうなんだ。複雑よね」 と彩矢は心配そうにしていたが、心の声では (菜摘さんも能力をを持ったって事は、私の能力で触れるのかな?) 「彩矢!」 「ごめんなさい」 コンビニが見えて来た。 「あそこのコンビニの2、3階が、菜摘さんの家よ」 「大丈夫かな?怖くなってきたわ」 「彩矢は、来なくていいわよ」 「行くよ。二人が心配だもん」 玄関までついて、チャイムを鳴らす。 すると中から返事が聞こえて玄関の戸が開いた。 「あら?貴方は確か明日香ちゃんよね?」 玄関に来たのは、菜摘さんの母親だった。 「はい、明日香です」 「よく来てくれたわね。本当にありがとうね。まだ菜摘は、部屋に閉じこもっているのよ」 彩矢が 「えっ!1週間経ったわよ」 「そうなのよ。それでもお通夜の後から、少し良くなったのよ。」 「お通夜から、少し良くなったんですか?」 「ええ。ご飯を食べる時に部屋から出るようになったのよ。」 すると彩矢が 「私がお通夜に行ったからだわ!」 さっきまで行くのを拒みかけていた人とは思えない程、態度が一変していた。 「私、部屋知ってるから、行ってもいいですか?」 母親も 「どうぞ、上がって」 彩矢が先頭を切って階段を登り、菜摘さんの部屋の前に立った。 そして先程の勢いのまま、部屋の中の菜摘さんに話し掛けた。 「菜摘さん。私よ、彩矢よ。」 返事が返って来ない。 もう一度彩矢が話し掛ける。 「ドアを開けて。今日は明日香もいるのよ」 すると中から 「帰って!ここには来ないで!」 彩矢が先程までの自信たっぷりだった表情が曇っていく。 そして、こっちを向き 「明日香、ダメだった」 と、早くも降参した。 代わりに私がドアの前で話し掛ける。 「菜摘さん、明日香です。ドアを開けてくれませんか?」 すると菜摘さんの心の声が聞こえてきた。 (あんたがユウを殺したのよ!) ! 私も心の声で話す。 (どういう事ですか?) (あんたを狙ってトラックが突っ込んで来たのよ! あんたが死ぬのが当たり前でしょ! それにユウは過去に遡ってあんたを助けに来たのに、何であんたは過去に遡ってユウを助けようとしなかったの?) 菜摘さんの言葉は、私の心に突き刺さってきた。 さらに菜摘さんの心の声は続く (あんたの顔なんか見たくないのよ。 あんたなんか死んでしまえばいいんだわ!) 次の瞬間、首が手で絞められる感覚が伝わる。 ! 息が出来ない! 気が遠くなってきた。 視界が無くなる寸前に、首の絞めつけが無くなった。 私は膝をつき、息を整える。 彩矢が座り込んだ私に 「明日香大丈夫? 何があったの!」 と私の両肩を支えた。 それを見た菜摘さんの母親が、 「一旦、下に行きましょう。」 と言って、私を抱き起こし、肩を貸してくれ、階段を一緒に降りていった。 リビングのソファーまで、私を連れて来てくれたので、私はソファーに腰を下ろした。 「何か冷たい物でも飲む?」 「すいません」 とお礼を言い、台所に向かう菜摘さんの母親を目で追った。 菜摘さんの母親は、菜摘さんの能力の事を知らない。 それどころか、能力の存在すら知らない。 でも伝えないと、 いや、伝えていいものか? さらに黒い影の事など、受け入れられるのだろうか? 私が考え込んでいると、彩矢が 「どうしたの? なんか考え込んでる?」 「うん。菜摘さんのお母さんに能力の事を言っていいのか悩んでるのよ」 「なんだ、そんな事か。 私に任せて」 菜摘さんの母親が、冷たい麦茶を持って来た。 「麦茶でいいかしら?」 彩矢 「はい、ありがとうございます。 大事な話があるんだけど、いいですか?」 えっ! 「あのですね。 菜摘さんは能力者なんですよ」 ? 菜摘さんの母親は、何を言っているのか分からず、キョトンとしている。 「それで、黒い影をまとっていて、そのまま放置すると大変な事になっちゃうんです。」 えっ! そんな説明で分かるはず無いでしょ! 「そうなのね。分かったわ」 え〜分かるの? 何が分かったの? 「要するに菜摘が不思議な力を使えて、悪い力になっているって事?」 何で分かるの? 私は、 「本当に分かったんですか?」 「うん。前に斉藤君と明日香さんが、不思議な能力を持っていると自慢していたから、何となくだけど、分かったわ。 でも、いつから菜摘は、その能力を使える様になったの?」 「あの事故からなんです。 そして、黒い分身に変わったのは、多分ユウが亡くなった時だと思います。」 「でも何で黒くなっちゃったの?」 「さっき分かったんですけど、ユウが亡くなったのは、私のせいだと言っていたので、私の事を怨んで黒くなっちゃったんだと思います。」 「でもどうしたら、いいのかしら?」 すると彩矢が 「明日香も能力者なんだけど、明日香は黒い影を祓い退ける力を持っているんです。」 と、まるで自分が力を持っているかの様に自慢気に話した。 「じゃあ、安心ね」 えっ! 安心しちゃうの? この楽観的な考え方と言い、話し方は、まるで菜摘さんと話している様だ。 ユウは性格が悪いと言っていたけど、そんな事は無かった。 母親が「明日香さん、どうしたの?」 「いえ、ユウが菜摘さんのお母さんは、怖い人だと言っていたので、全然違うのでビックリしてました。」 「それは大事な娘を奪っていきそうな子を、好きにはなれないわ。 頭も良く無いみたいだったし、どうせなら有名大学に行っている他のバイトの子と付き合って欲しかったから、あの子にはきつく当たって、早く辞めさせたかったのよ」 (そ・・・) ? あれ? なんか聞こえた様な気がした。
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