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(ユウ)
今日菜摘さんの所に向かう明日香が心配で、僕は菜摘さんの家の前にある公園で待つ事にした。
何時に来るのかな?
パソコンに書かれたメッセージには、時間が書いてなかったけど、そんなに早く無いだろうと思ってはいたが、朝の8時に公園に着いていた。
それにしても遊具も置いてなく、ゲートボールをやるぐらいの敷地しかない公園なので、誰も人が来ない。
でも、この公園には僕の思い出がいくつかあった。
中学の時に、捨て猫の面倒を見ていたり、菜摘さんの交際の申し入れを断ったのも、この公園だった。
捨て猫は、雪が降ってきた時に、寒かろうと公園に急いで行った時に居なくなっていたが、菜摘さんが拾ってくれて今でも飼っている。
拾った日に雪が降っていたから名前も「ユキ」なんだろうと分かった。
そんな優しい菜摘さんが・・・
早く元の菜摘さんに戻って欲しい。
すると後ろから
「ニャー」
同時に心の声が聞こえる。
(お父さん)
捨て猫のユキだ。
動物の声が聞ける事を知ったのは、福島で熊に遭遇した時に分かった。
人は言葉で聞けるのだが、動物の場合は、感覚が伝わって言葉を感じる。
(どうしたの?家を出て菜摘さんが心配しない?)
(うん。外に行きたいと言うと、出してくれるんだ。)
(そうなんだね。でもいい人に育ててもらって良かったね)
(うん。凄くいい人だよ。)
僕の家は父が亡くなっていて、母しか居ない。母も看護師で夜勤があるので、動物を飼う事は出来なかった。
夜勤の時は、一人で寂しい時間を過ごしていたが、
もしその時に能力があって、猫を飼えていれば、動物と話しが出来る生活になるので、夜勤で1人になる時間も、きっと嫌では無かったかも知れないと思うのだった。
(お父さんどうしたの?)
(ううん。何でもないよ。ちょっと考え事しちゃった。)
(お父さんは、何でなっちゃんと恋人にならなかったの?)
猫が恋人なんて
(どうして?)
(なっちゃんは、前からお父さんの事が好きだったから)
(そうか、ただね。
僕もそれだけ好きな人がいたんだよ。)
(じゃあ、もういないんだったら、なっちゃんの恋人になってあげてよ)
(ダメだよ。僕は死んじゃってるんだから、恋人にはなれないよ)
(何で?)
そんな事は、考えた事が無かった。
(結婚も出来ないし、何かあっても助ける事も出来ないから、僕は恋人になる事は出来ないんだ。)
(そうなんだ。また、なっちゃん悲しんじゃうの?)
その言葉は胸に突き刺さった
(うん。多分・・・)
ユキの言う通りだ。やっぱり、僕がいる事を伝えたのは、まずかったと後悔したのであった。
(じゃあ、なっちゃんの所に戻るね。)
そう言って、走り去っていく。
まさか猫がここまで、物事を考える力がある事にビックリしつつも、自分が菜摘さんを苦しめる事になる事への罪悪感を感じた。
あっ圭だ!
コンビニのバイトに行くのだろう、圭が公園を横切って歩いていった。
ちょっとだけなら目を離しても大丈夫かな?
僕は圭の後を追って行く。
案の定、コンビニに入って行く。僕もこのコンビニでバイトをしていたので、懐かしさを感じつつも、入っていった。
圭と同じ時間に、大学生の二人組が同じ時間のシフトだったみたいで、3人で業務を行う。
ちょうどお昼時期とあって、コンビニも賑わっていた。
手助けしようにも、物を触れない僕は、ただ眺める事しか出来ない。
やっと13時をまわって、店内は落ち着きを見せていた。
レジは圭だけが残り、大学生の二人組は、奥の休憩室で飲み物を飲んでいる。
どんな事を話しているんだろう?
僕は、いけない事と分かっていたが、盗み聞きをしてしまう。
「なあ。菜摘ちゃんが失恋したみたいだぞ」
?
「マジで、俺アタックしちゃおうかな?」
!
「お前は彼女居るだろ?」
「別にいたって関係ないでしょ。遊びなんだから」
「何言ってるんだよ!俺が狙うって言おうと思って話したんだぞ!」
「お前だって彼女いるだろ?」
「それは関係ないだろ!どっちが本命になるか、付き合ってから決めるんだから」
何だ?何言ってるんだ!
僕は、信じられない言葉を聞いて、耳を疑った。
二人とも有名大学に通う程に頭が良くて、明るく優しい人達だと思っていただけに、あまりに思っていたギャップに戸惑う。
その時
「あっ猫が入って来やがった!」
と一人の大学生が叫ぶ。
それを聞いて、圭が休憩室にやって来た。
「この猫は菜摘さんが飼っている猫ですよ。」
と言って、ユキを抱きかかえて、外に連れ出そうとする。
ユキは僕に向って
(お父さん、なっちゃんの所に、すぐに言って!)
あっ!明日香!
僕は菜摘さんの部屋に行くと、菜摘さんが凄まじい形相で部屋のドアを睨んでいる。
僕は恐る恐る耳元で声をかける。
(菜摘さん?)
慌ててドアを向いていた顔が僕の方を見る。
ドアの向こうでは
「明日香、大丈夫?」
等の声が聞こえた。
そしてすぐに階段を降りる音が聞こえる。
(菜摘さん、何かあったの?)
(明日香が来たの。帰ってって言ったのに帰ってくれなくて、つい・・・)
(えっ?ついって?)
(ちょっと首を絞めるイメージを持ったら、何故か苦しみ出しちゃったの)
(えっ!)
僕は心配になり、明日香の所に行こうとしたが
(ユウ!行かないで!)
まるで見えていたかの様に、行くのを止まられる。
(菜摘さん・・・)
(良かった。まだ居てくれたのね。
ごめんね。
私、明日香ちゃんの事を恨むのをやめようと頑張って見たんだけど、日々憎しみが増幅して行くの。
少し良くなって来たと思うと、頭が痛くなり変な声が聞こえてきて、明日香が悪いとか、お前も殺されるとか、明日香ちゃんを恨む心をあおる声が聞こえるの」
(あおる声?)
(うん。本当だよ。ユウ、信じて)
(うん。信じるよ。)
(私、自分が怖い。ユウ、助けて!)
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