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地獄谷3
朱雀は式神に命令して死体を集めて祠に運び込む。これも昔からのしきたりだ。朱雀の中にはこの記憶が詰まっている。おそらく大婆がしてきたことなのだろう。この村は3年に1度はこういう略奪が起こっている。串刺しになった式神は蝦蟇が背負う。
「おい、この女の子まだ温かいぞ」
その声に朱雀が腹を裂かれた少女の胸を開いて耳を付ける。鼓動が助けてと鳴り続いている。この娘は村主の一人娘だ。まだ15歳だ。祈祷に出かけると餅をくれたり古着を分けてくれたりする。
「大婆に見てもらおう」
と持っている薬を塗って布で縛り背中に背負う。村人はしばらく降りてこないだろう。朱雀は先頭を歩きはじめる。背中が温かい。殿は体に式神の死体を縛った蝦蟇だ。少し遅れて何度も振り返る。付けて来られることもよくあるのだ。滝を登り地獄谷にはいる。地獄谷には人の気配がする。
「一人失ったか?」
のっぺらぼうの声だ。大婆の若い頃から生きて来た。昔は戦いを取り仕切ってきた頭だった。
「今回は何時もの盗賊ではない。武者だ」
「背中の娘は?」
「村主の娘だ」
「赤子の時にお祝いに出かけたのを覚えているさ」
「入り口を見張っていてくれ」
その声の後気配が消えた。
大婆の壊れそうな社に火の灯りが付いている。
「式神を一人を一人失いました」
「分かっている。娘を寝かせろ」
大婆は娘を半裸にするとすでに用意していた焼け刃を傷口に当てる。焼けるような臭いが充満する。大婆は祈祷だけでなく医術も行う。蝦蟇は式神を綺麗に拭いてやって莚に寝かせる。
「朱雀は娘を小屋に連れて行って面倒を見てやれ」
と言うと今度は死んだ式神を前に祈祷を始める。朝まで祈祷を続けると裏山の祠に運び込むのだ。朱雀の記憶ではこの洞に38体の死体がミイラ化している。この記憶は大婆の記憶でもある。
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