地獄谷4

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地獄谷4

 丸2日寝続けていた娘が目を開いた。この小屋は式神の住まいだ。死んだ式神の莚を娘に敷いた。朝起きるとすでに娘の目が開いていた。 「父も母も私の前で死んでしまった。もうどうしたらいいのか分からない」 「体が治ったら母屋に戻ったらいい」 「もう身内は誰もいないよ。もしお願いできるなら形見を探してきてほしい」 と言われて朱雀は再び村に降りた。村主の母屋に入ると部屋中が掻きまわされている。朱雀は娘の部屋に入って残っていた着物を袋に詰めた。死体が3つ転がっている。縛られていたくノ一が縄が床に残っていた。  まだどの小屋にも人の気配がなかった。やはりまだ村人は山から下りてこないのだろう。盗賊が村を占拠している場合もあるのだ。村道を抜けて洞の前に来る。洞は涼しい。だが新しい死体の腐臭がすでにしている。朱雀は村主と妻を見つけて妻の首飾りと村主の首にかかっていた鍵を懐に入れた。  それから馬の蹄の後を追って行く。しばらく行くと村道から山道に逸れる。山道は馬がよく通るのしっかり踏み固められている。これは地獄谷から木立の間から見える岩山に向かっているようだ。1刻登ると砦の門が聳えている。朱雀も猟に出るがこの岩山には来ない。岩山側に回り砦の中を上から覗く。  中は思ったより広い。思い思いの鎧を付けた男達が出入りしている建物がある。朱雀はその建物の裏に飛び降りて酔っている男の鎧を剥した。部屋の中には百人ほどの男が酒を飲んで騒いでいる。連れてこられた女が20人ほどいる。一段高い席に5人の男が3人の女を相手に飲んでいる。その一人が眼帯をしているあの鎧男だ。 「竜が片目を失うとはな?」 「次会ったら殺す」  朱雀は息を殺して竜を見詰める。 「だが次は京極の要請で京に行く」  朱雀が初めて見る悪党だ。このところ今日の周辺にこの悪党が暴れている。
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