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最後の夜に
「私の好きなところ言ってみて」
「......ん? あー、全部」
「全部って何? 具体的に」
気がつけば真奈子と結婚して四十年が経っていた。
背中まであった黒くて長い綺麗だった髪は耳が掛かるくらいまで短く切って、白い色がかなり混ざっている、シワが目立つようになり、皮膚も重力に完敗してしまったようで、色気のかけらも残っていなかった。
「全部は全部だよ、だいたい何だよ今更、付き合い出したばかりのカップルじゃあるまいし」
「何それ......」
とはいえ、俺も同じだ。
腹は飛び出し、髪も薄くなり、とてもカッコいいおじさん、というわけにはいかなかった。
見た目には俺の方が酷いか......
「フッ」と、笑いが込み上げた。
「何笑ってるの? そんなだから、娘の美代にも嫌われるのよ、本当しっかりしてよ」
「別に嫌われてるわけじゃ無いよ、それはお前が悪いんだろ」
「あら、そうかしら?」
夕飯は終わっていたが、今日は飲み足りない、冷蔵庫から缶ビールを取ると、コップを置いて注いだ。
「ちょっと、まだ飲むの?」
「今日はいいだろ? 飲み足りないんだよ」
「健康の為に減らすって自分で決めときながら飲むのね、しっかりしてよ本当」
「うるさいなぁ、いいんだよ」
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