最後の夜に

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 四十年も一緒にいれば、嫌なことの方が多くなる。やたらと口うるさい妻にイライラが募ると、破裂してしまうのが現実だ。 「この際だから好きなところより、嫌いなところを言ってやるよ!」  妻は笑いながら俺を見ている。  望むところだ、さあ言ってみろ、と言った感じだ。  ならば言ってやる、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすいい機会だ。 「口癖のように、しっかりしてよ、と言ってくるお前が嫌いだ」 「へー」  表情を変えずに俺を見る、その姿に言い切れない程の不満が溢れてくる。 「毎日の弁当だ、毎日作ってくれるのは有難いが、何度言ってもお前は俺の嫌いなものばかり詰め込む、その度に職場で嫌な気分になるんだよ」 「だからそれはあなたの健康を思ってのことでしょ」  ビールを一気に飲み干してコップを叩くようにテーブルに置く。 「それとまだあるぞ、四十年前、美代(みよ)が産まれてからは酷かった、父親の威厳というものを持たせてくれなかったじゃないか」 「しょうがないでしょ、あなた、口ばっかりで、子育て全然協力してくれなかったじゃない」  やはり彼女の方が一枚上手だった、いつもと同じように、俺の攻撃は妻の正論に負ける型で終わる。口では勝てない、かといって暴力を振るうほど、度胸もない――
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