最後の夜に

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 何も出来ずただ負けを認めざるを得ない、そういうところも、嫌いなところの一つでもある。 「まあね、私も悪かったわ、これからは一人で気楽に暮らせばいいんじゃない?」  トドメのような一言、嫌なところが目立つというのは、誰でも同じではないのだろうか、だからといって決して良いところが無いというわけではない。 「いや、待ってくれよ、俺が悪かったから、こんな歳で離婚なんて――」 「私は、あなたに任せます」 「な、何だよまた改まって、ま、まぁこれからも、仲良くして行くか?」  その突然の謙虚さと、安心感で、涙が滲んでしまった。 「何泣いてるのよ......」 「いいんだよ......」  満面の笑みを浮かべる真奈子。  やはり俺はお前が嫌いだ。  微笑むその笑顔も嫌いだ――  俺のすることなすことにいちいち口を出してくる所も嫌いだ――  家事を手伝えば、文句しか言われない所も嫌いだ――  休日になれば、邪魔者扱いしてくる所も嫌いだ――  結局俺はお前の為に何もできなかった、お前の喜ぶことは何もできていなかった。お前はそれで良かったのか――  そしてお前が最後に言った言葉、 「......ありがとう」  その言葉を最後に選んだというのも嫌いだ――  悲しくて、立ち直れなくなるから......
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