2758人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
「俺が今から言うのは、詩織が『結婚したい』って泣いたからじゃないからな」
そう前置きして言った。
「……俺も詩織と結婚したい。ずっと、したかった」
詩織が俺を見据えた。とても、信じてくれているとは言い難い、そんな瞳だった。
「詩織が好きで、不安だった。……また、振られるんじゃないかって。転職してどうなるか分からないのに、結婚したいって言っていいのか……詩織に負担をかけるんじゃないかって」
詩織は……少し、さっきよりはマシな瞳。
「格好悪いだろ? ……だから……ああ!
もう! これ、プロポーズにするなよ? 日改めて……いや、ちょっと今から……コース料理でも予約、予約! 」
そう言ってスマホを握りしめると、詩織がそっとその手に自分の手を重ねた。
「何だ、知佳だって、ダッサ! 」
「……詩織だって、変なピンつけてたし……」
お互い、膨れっ面で目が合うと、どちらからともなく吹き出して、笑いが止まらない。
「ああ、もう、バカみたい」
「ああ、もう、バカみたいじゃなくて、バカだろ」
しばらくゲラゲラ笑って、それから詩織が言った。
「さっきの……私が言ったの、プロポーズだからね」
「ん、じゃあ、俺の今のもプロポーズってことで……」
「いいの? 」
「いいのか? 」
とても格好いいとは言えないけど、俺達には十分で……ただただ、そこでずっと、抱き合った。
玄関からはちょっとだけ進んだ、その場所で。
最初のコメントを投稿しよう!