第25話 知佳

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「俺が今から言うのは、詩織が『結婚したい』って泣いたからじゃないからな」 そう前置きして言った。 「……俺も詩織と結婚したい。ずっと、したかった」 詩織が俺を見据えた。とても、信じてくれているとは言い難い、そんな瞳だった。 「詩織が好きで、不安だった。……また、振られるんじゃないかって。転職してどうなるか分からないのに、結婚したいって言っていいのか……詩織に負担をかけるんじゃないかって」 詩織は……少し、さっきよりはマシな瞳。 「格好悪いだろ? ……だから……ああ! もう! これ、プロポーズにするなよ? 日改めて……いや、ちょっと今から……コース料理でも予約、予約! 」 そう言ってスマホを握りしめると、詩織がそっとその手に自分の手を重ねた。 「何だ、知佳だって、ダッサ! 」 「……詩織だって、変なピンつけてたし……」 お互い、膨れっ面で目が合うと、どちらからともなく吹き出して、笑いが止まらない。 「ああ、もう、バカみたい」 「ああ、もう、バカみたいじゃなくて、バカだろ」 しばらくゲラゲラ笑って、それから詩織が言った。 「さっきの……私が言ったの、プロポーズだからね」 「ん、じゃあ、俺の今のもプロポーズってことで……」 「いいの? 」 「いいのか? 」 とても格好いいとは言えないけど、俺達には十分で……ただただ、そこでずっと、抱き合った。 玄関からはちょっとだけ進んだ、その場所で。
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