2756人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
「センチメンタル……」
ふっ、と笑って、そのボトルを引き出しにしまいこんだ。
“昔、好きだった匂い”。俺は、香水は付けない。多分、もう、付けないと思う。付ける必要が無くなったから。
洗いざらしの髪を、緩く梳く。
「久しぶりだ」
懐かしい友人に会うのも、会おうという気になったのも。休日に誰かとの約束が入ることも。
友人の選んだ場所は、大学生は選ばなかったような、スーツ姿の多い店だった。
「久しぶり」
そう言ってグラスを合わせると、あっという間に、久しぶりだと思わせないような楽しい時間だった。
「忙しかったんだな」
「何、必死だっただけだ」
一通りの、卒業後からの近況報告が終わると、清はおもむろに切り出した。この古くからの友人、清は人を油断させる。込み入った話もすんなりと口を開かせてしまう。
「今、彼女いんの?」
「……デッカイ失恋したとこ」
「……お前でも振られんの?」
「そ、全然ダメ」
「そんなに好きだったわけ?」
「だな、好きで好きで……気がつきゃ、3年」
「ま、マジか!!」
久しぶりだってのに、暗くなりそうなのでこの話は止めた。同情されるまでもなく、終わった事だ。
「お前は?」
「あ、実は……最近彼女が出来たんだ。それでお前に確認!」
「……何だよ」
清の顔に緊張の色。確認?思わず眉根を寄せた。
「松原って、お前の元カノ?」
「……松原……覚えがないな。違う」
俺がそう言うと、清の顔色は戻り、安堵の長い長いため息を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!