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 始業は八時半からだから、三十分前に着いていれば大丈夫。そうは思うのだけれど、無人だったらどうしよう。  ……というか、あたしの席、あるよね?  よぎった不安に、ぶんぶんと頭を振る。  実を言うと、辞令が出てから一度もここに顔を出せていないのだ。  よろず相談課の課長さんからいただいた「異動の日の朝に顔を出してくれたら十分だから、それまでは前の課で仕事を片付けていなさい」という内線を真に受けたわけなのだが。  有海さんもそれでいいって言ってくれたけど(あの顔はあそこのことはよくわからないから、あそこのルールに従えっていう、ちょっと諦めも入った顔だった)、本当によかったのだろうか。  ――ぶ、無礼者とか思われてたら、どうしよう……。  いや、大丈夫、大丈夫。  マイナス思考を吹き飛ばして、笑顔をつくる。せめて第一印象くらいは明るく決めたい。  よし、と最後に気合を入れてドアノブを掴もうとした、その瞬間。前触れなくドアが開いた。 「いっ……!」  額に走った衝撃に、声もなくあたしは呻いた。ドアと激突したらしいと認識したのは、数秒経過してからだった。ものすごく痛い。 「あ? なんだ、おまえ」  ふつう。ふつう、自分が開けたドアで原因で誰かが悶絶していたら、第一声は「ごめんなさい」じゃないだろうか。  いや、扉の前で悶々と立ち尽くしていたあたしも悪いかもしれないけど、でも。そんな不機嫌そうな声を出さなくてもいいじゃないか。  滲んだ涙と不平を飲み込んで顔を上げたところで、――あたしは痛みを忘れて、ぽかんと目を瞬かせた。
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