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「おまえ、誰だ? なんでここにいる?」  警戒心バリバリの声に、はっとして口を開く。 「あ、あの……最上先輩」  その呼びかけに、目の前の男の人の肩がびくりと揺れた。あれ、と内心であたしは首を捻る。  ――最上先輩で合ってるよね? 喋り方はさておき聞き覚えのある声だし、間違いないと思ったんだけど。それに……。  鳥の巣頭と評したくなるもじゃもじゃの黒髪に、黒縁眼鏡。そしてモスグレーのつなぎ。  間違いない、「旧館のもじゃおさん」だ。  そう結論付けて、あたしは精いっぱいの笑顔を張り付けた。 「あの、最上先輩ですよね? 北高の。あたしも北高で、最上先輩の二学年下だったんです。あ、すみません。えっと、今日からこちらに配属になりました三崎はなと申します」  どうぞよろしくお願いしますと頭を下げる。一秒、二秒。何秒待っても無言のままだ。不安になって顔を上げたところで、あたしは絶句した。 「は?」  誰もいない。目の前から人の気配は完全に消えていた。 「え? え? 最上先輩?」  意味がわからない。え? いたよね、さっきまで。混乱しながらも課内に踏み込む。  なに、どこに消えたの。というか、なんで消えるの。  泣きそうになりながら、課内を見渡す。昨日まで在籍していた課に比べると半分ほどの広さだ。  うちの課もそうだったように、壁際には背の高いキャビネットケースが並んでいて、部屋の中央には事務机が二台ずつ向き合って島をつくっていた。窓際には課長席と思しき机が一台。はじめて足を踏み入れたけれど、市役所によくある見慣れた配置。  それなのに、誰もいない。 「な、なんで……」  変人。脳裏をよぎった鈴木さんの声に、膝から崩れ落ちそうになる。
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