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「ほら、真晴くん」  その七海さんが振り返って呼びかける。嫌な想像は脇に置いて、あたしもひょいと室内を覗き込んだ。来客者に対応するための部屋なのだろうか。センターテーブルを挟んで、ふたり掛けのソファーが二脚並んでいる。  こんな部屋があるんだ、すごいなぁと眺めていると、ソファーの奥から黒い影がぬぼっと出現した。 「ひぃ!」 「三崎くん、三崎くん。真晴くんだよ」  七海さんの声に、かくかくと首を縦に振る。そりゃそうだ。むしろ先輩じゃなかったら誰だという話だ。怖すぎる。  仏頂面のまま近づいてきた先輩は、目を逸らしたら負けだと言わんばかりにこちらを凝視し続けている。  ――あの、そんなにお気に沿わないようなことをしましたでしょうか、あたし。  後退したいのを必死で堪えて、視線で七海さんに助けを求める。 「あ、あの、七海さん」 「あぁ」  その視線を受けて頷いた七海さんが、優しげな笑顔でとんでもないことを言った。 「三崎くん。これが最上真晴くん。きみの教育係だから、まぁ、なんとか仲良くしてあげてね」 「きょ、教育……」 「そう。教育係。真晴くんは新卒でここにやってきて、えぇと、今年で何年目になるんだっけ?」 「……六年」 「そう。六年。だから、もう立派な中堅だ。ここの業務内容のことはよくよくわかっているから。わからないことはなんでも真晴くんに質問してね」 「は、はぁ」  ぎこちなく頷いて、七海さんから先輩へと視線を戻す。やっぱり睨まれている気しかしない。なぜだ。  不安におののきながらも必死に笑顔を取り繕う。ここであたしがビビってそっぽを向いた日には、コミュニケーションが破綻する。そんな予感がしたからだ。
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