7/22

213人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
「最上先輩。あの、どうぞよろしくお願いします」 「――って呼ぶな」 「はい?」  ふいっと目を逸らした先輩が、ぼそりと呟く。聞き取り損ねて、あたしは目を瞬かせた。 「俺はおまえみたいな後輩がいた記憶はねぇし、職場でその呼び方すんな」 「で、でも」 「だいたい、なんだ。先輩って。ここは学校の仲良し部活か。俺はな、おまえの同僚ではあっても、上司でもねぇし、先輩でもねぇ。おまえの尻拭いは一切しねぇからな。新入り面して甘えてんじゃねぇぞ」 「こら、真晴くん。いいかげんにしなさい」  小さい子を叱るような七海さんの取り為しに、大きな子どもが黙り込む。  なに、この人。なんなの、いったい。  目を白黒させることしかできないでいると、七海さんが心底申し訳なさそうに眉を下げた。 「ごめんね、三崎くん。仕事はできてもこのとおりのコミュニケーション不全で。まぁ、野生動物みたいなもので、しばらく一緒にいたら慣れていくと思うから、それまで我慢してやってくれるかい?」 「おい、ふざけんな! 誰が野生動物だ!」 「きみだよ、きみ。そのバリバリの警戒心とむやみに主張したがる縄張り意識。その上とんでもなく繊細ときた」 「……」 「これで野生動物じゃなかったらなんだって言うんだ、まったく」  やれやれと肩をすくめた七海さんを無言のまま睨んでいた先輩が、ふんと鼻を鳴らした。そのまま、あたしたちの脇をすり抜けて先輩の席らしきところに座る。  ……調教?  これが人慣れた野生動物の姿なんですか、との突っ込みが喉元までせり上がってきた。七海さんは、よくできましたと言わんばかりの笑みを浮かべている。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加