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「最上先輩。あの、どうぞよろしくお願いします」
「――って呼ぶな」
「はい?」
ふいっと目を逸らした先輩が、ぼそりと呟く。聞き取り損ねて、あたしは目を瞬かせた。
「俺はおまえみたいな後輩がいた記憶はねぇし、職場でその呼び方すんな」
「で、でも」
「だいたい、なんだ。先輩って。ここは学校の仲良し部活か。俺はな、おまえの同僚ではあっても、上司でもねぇし、先輩でもねぇ。おまえの尻拭いは一切しねぇからな。新入り面して甘えてんじゃねぇぞ」
「こら、真晴くん。いいかげんにしなさい」
小さい子を叱るような七海さんの取り為しに、大きな子どもが黙り込む。
なに、この人。なんなの、いったい。
目を白黒させることしかできないでいると、七海さんが心底申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんね、三崎くん。仕事はできてもこのとおりのコミュニケーション不全で。まぁ、野生動物みたいなもので、しばらく一緒にいたら慣れていくと思うから、それまで我慢してやってくれるかい?」
「おい、ふざけんな! 誰が野生動物だ!」
「きみだよ、きみ。そのバリバリの警戒心とむやみに主張したがる縄張り意識。その上とんでもなく繊細ときた」
「……」
「これで野生動物じゃなかったらなんだって言うんだ、まったく」
やれやれと肩をすくめた七海さんを無言のまま睨んでいた先輩が、ふんと鼻を鳴らした。そのまま、あたしたちの脇をすり抜けて先輩の席らしきところに座る。
……調教?
これが人慣れた野生動物の姿なんですか、との突っ込みが喉元までせり上がってきた。七海さんは、よくできましたと言わんばかりの笑みを浮かべている。
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