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「三崎くん、きみの席は真晴くんの隣だ。ちなみに、真晴くんの前が僕の席」 「は、はい」  ぎこちなく頷いて、あたしは言われたとおりに椅子を引いた。隣の先輩は、頑なにこちらを見ようともしない。  野生動物。あたしは心のなかで繰り返した。そうだ、野良猫だと思えばかわいいものじゃないか。  必死で言い聞かせて、国民健康保険課から持ってきた私物の片付けに手を付ける。同期の夏梨ちゃんに去年の誕生日に貰ったハリネズミのマグカップを最後に机の上に置いて、あたしはほっと瞳をゆるませた。ちょっと間の抜けた顔をしているのが最強にかわいい。前の課にいたときも、嫌なことがあったときはこの顔に癒されたのだった。  同じ動物でもこっちはかわいいのに。などと思いながら指先でハリネズミを撫ぜる。 「ん?」  そこで胡乱な視線を感じて顔を上げる。もしかして、うっかり声に出ていただろうか。 「あ、あの、その、どうかしましたか?」  引きつりそうな笑顔で首を傾げると、無言で視線を外されてしまった。 「えぇと、これ、同期の子から貰ったハリネズミなんですけど。そのかわいくないですか? この、警戒心ビリビリな感じ……」  必死で取り繕っているうちにどつぼに嵌まったような気がして、方向転換を試みる。 「いや、あの、先輩みたいだって言ってるわけじゃないですよ」  あ、ヤバい。間違った。悟ったときには七海さんは肩を震わせていて、先輩の眉間の皴は一本増えていた。 「真晴くんもハリネズミくらいのかわいさだったらよかったのにねぇ」  フォローのつもりなのか、七海さんが言う。笑いたいのを堪えたような声だったが。もう片方は無視を貫いている。あははと乾いた声で笑って、あたしは手に取っていたマグカップをそっと元の位置に戻した。いつもは癒されるハリネズミちゃんの顔が嘲笑っているように見える。重症だ。  ――始業もまだなのに、大丈夫かな、これ。  机の下で胃を撫でさすっていると、ガチャリとドアが開いた。チャイムの鳴る二分前である。
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