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「あの、ここって、その、たとえば、どんな相談が多いんですか?」
「うーん、そうだね。一概には言えないけれど」
「うちに回って来るのなんざ、厄介ごとに決まってるだろ」
ぼそりと聞こえた不吉な台詞に、あたしは右斜め前方を見て右を見て、右斜め前方を見た。諦めた顔で七海さんが眦を下げる。
「まぁ、よろず相談課だからねぇ」
だから、いろんな相談があるよねと言わんばかりだ。「厄介ごとばかり」だという恐ろしすぎる発言は、まったく否定されなかった。
「直近の事例で言えば、……そうだな。昨日も真晴くんは要請があったから、外に出てたよね」
「あぁ」
新人の不安を取り除いてやろうという気遣いなんて皆無の、うんざりとした相槌だ。嫌な予感はしたけれど、興味が勝って問いかける。
「どんな要請だったんですか?」
あたしをちらりと一瞥した先輩が、手元の本を繰る。そして、本に目を落としたまま呟いた。
「神社の掃除」
「は?」
「だから、掃除だっつってるだろ。あのばばぁが、やれ最近は誰も掃除をしないだのなんのってうるせぇから」
「え、あの、そういうのって、宮司さんとかご町内の方のお仕事じゃ」
呆れ顔の先輩と目が合ったはずなのに、なにも返事がない。
なに言ってんだ、てめぇ、くらいのことは思われていそうだったので、へらりと笑う。
「あの、すみません。そういうのもあたしたちの仕事なんですね」
「神主さんが常駐されている大きな神社ばかりでもないし、残念ながら地域から忘れ去られてしまったような社もあるからね」
「はぁ……」
神社の荒れ具合が気になったご老人が、役所に苦情を述べた、ということなのだろうか。
そして、それが「よろず相談」としてうちに回ってきたと。
「なるほど」
なにがなるほどなのかは自分でも謎だったが、とかくあたしは頷いた。かかってくる電話の内容は万千番だと覚悟したほうがいいのかもしれない。
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