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「三崎くん、三崎くん」  肩を落としたあたしを見かねたのか、七海さんが囁く。 「は、はい。すみません」 「そんなに恐縮しなくていいからね。それと妙な電話は真晴くんに回したらいいよ。処理してくれるから」 「え、でも、それは……」  恐縮しきりのあたしに、七海さんがほほえむ。なんの問題もないよというように。 「大丈夫、大丈夫。しばらくすれば、きみにもできるようになるから。それまでは甘えて真晴くんの仕事を見ていたらいいよ」  本当にそうだろうか。不安はいっぱいだけれど、七海さんの心遣いはありがたい。 「ありがとうございます、がんばります」  ぺこりと頭を下げると、七海さんが頷いた。  先輩はまだ電話対応中だ。勉強させてもらうべく耳を澄ます。やはりとんでもなく口調は雑だが、あたしと話しているときと違って棘はない。  うーんと内心で首を捻る。話している内容はいまひとつわからないけれど、ここではこういった対応が求められているのだろうか。  電話で相談してくるのは、いわゆる常連さん。  どの方にも公平に接することを念頭に置いていた前の課とは違う、一線を越したようにも思える親身な対応。  一件だけで判断はできないけれど、かすかに聞こえるおばあさんの声はやっぱり楽しそうだ。  ――楽しかったらいいというものでもないとは思うけれど。  そうこうしているうちに話が付いたらしく、先輩が子機を置いた。 「あ、あの」 「おい、新人」 「はい! あの、すみませんでした」  ご迷惑おかけしましたという謝罪を完全に無視して、先輩が立ち上がる。 「行くぞ」 「はい?」 「着いてこい」  言うなり、ドアに向かって先輩が歩き出す。その背中と七海さんとを見比べる。行っておいでと目配せされて、慌ててあたしも立ち上がった。  なにを持って行けばいいんだろう。先輩は手ぶらみたいだし、職員証だけ持って行ったら大丈夫かな。  そう判断して、七海さんと課長とにぺこりと頭を下げる。
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