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カラスがどこかで鳴いている。おばあさんが貸してくれた軍手で雑草を引き抜きながら、あたしは夕闇に染まり出した空を仰いだ。
そのままぐるりと周囲を見渡せば、山もりのごみ袋が四つ。五つ目がちょうど八割ほど草で埋まったところだった。
――こ、腰が痛い。
慣れない態勢で長時間かがんでいたのだ。明日は筋肉痛になること間違いなしだ。憂鬱を覚えながら、ぷつりと草を抜く。雑草を抜くときは根っこから。かつてのおばあちゃんの教えを忠実に守りながら、あたしはもくもくと作業に取り掛かる。
もれそうになった溜息は寸前のところで呑み込んだ。
溜息のひとつくらい許されたい気もするけれど、あの先輩が文句ひとつなく雑草をぶちぶち引っこ抜いているのだ。あたしが愚痴なんぞ言えるわけがない。
そんなわけで、あたしは無言で草むしりをしている先輩の近くで、ずっと草をむしり続けていたのだった。
五個目の袋が満杯になったところで、やっと先輩が立ち上がった。つなぎをぱんぱんと払っている。
「お、終わり、ですか?」
「おお」
あたしを見ようともせず、先輩が膨らんだごみ袋を四つ持って歩き出す。終わりだと確信して、あたしも放置されたラストひとつのごみ袋を手に追いかける。
というか、一個でもそれなりに重いのに、すごいな。先輩。
三対二でもなく四対一の割合にしてくれるあたり、女の子扱いしてくれているのだろうか。
いや、ないな。一瞬であたしは自分の考えを否定した。ない。自分で持てる限界が四つだっただけだ。
「おい、ばあさん。終わったから帰るからな」
先輩が開いたままの玄関から室内へと声をかけた。返事はない。けれど、先輩は気にした様子もなく踵を返そうとする。
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