19/22

213人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
**  カラスがどこかで鳴いている。おばあさんが貸してくれた軍手で雑草を引き抜きながら、あたしは夕闇に染まり出した空を仰いだ。  そのままぐるりと周囲を見渡せば、山もりのごみ袋が四つ。五つ目がちょうど八割ほど草で埋まったところだった。  ――こ、腰が痛い。  慣れない態勢で長時間かがんでいたのだ。明日は筋肉痛になること間違いなしだ。憂鬱を覚えながら、ぷつりと草を抜く。雑草を抜くときは根っこから。かつてのおばあちゃんの教えを忠実に守りながら、あたしはもくもくと作業に取り掛かる。  もれそうになった溜息は寸前のところで呑み込んだ。  溜息のひとつくらい許されたい気もするけれど、あの先輩が文句ひとつなく雑草をぶちぶち引っこ抜いているのだ。あたしが愚痴なんぞ言えるわけがない。  そんなわけで、あたしは無言で草むしりをしている先輩の近くで、ずっと草をむしり続けていたのだった。  五個目の袋が満杯になったところで、やっと先輩が立ち上がった。つなぎをぱんぱんと払っている。 「お、終わり、ですか?」 「おお」  あたしを見ようともせず、先輩が膨らんだごみ袋を四つ持って歩き出す。終わりだと確信して、あたしも放置されたラストひとつのごみ袋を手に追いかける。  というか、一個でもそれなりに重いのに、すごいな。先輩。  三対二でもなく四対一の割合にしてくれるあたり、女の子扱いしてくれているのだろうか。  いや、ないな。一瞬であたしは自分の考えを否定した。ない。自分で持てる限界が四つだっただけだ。 「おい、ばあさん。終わったから帰るからな」  先輩が開いたままの玄関から室内へと声をかけた。返事はない。けれど、先輩は気にした様子もなく踵を返そうとする。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加