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「あ、あの。先輩」 「なんだよ」 「これ、どうしましょう。中にいらっしゃるなら、ちょっとあたしご挨拶してきてもいいですか?」  外したばかりの軍手を掲げると、先輩が面倒くさそうに唸った。それから溜息。  なんだか申し訳なくなって謝ろうとしたのだが、それより先に軍手を取り上げられてしまった。先輩が框の上に投げ置く。 「せ、先輩……」 「おい、ばあさん。ここに軍手も置いてくからな!」  やはり中からの返事はない。けれど、先輩はこれでいいだろと言わんばかりだった。玄関を閉めて歩き出す。 「あ、あの」 「あのばあさんの家に入るのは駄目なんだ。まぁ、声は届いてるから問題ねぇよ」 「……そうですか」  先輩が言うのだから、その判断が正しいのだと納得することにした。求められているのは常識的な判断ではなく、その人に合わせた対応ということなのだ、きっと。  獣道を下って、公用車の後部座席にごみ袋を詰め込む。これで運転席から後ろがちゃんと見えるのか不安になって、最後に思い切り押し込んだ。 「おい、こら、新人。袋が破れたら面倒なんだ。やめろ」 「さては先輩、前にやらかしましたね」 「……」 「すみません。気をつけます」  無言の圧力にあっさりとあたしは屈した。押し込むのを諦めて、なるべく高くならないよう工夫して詰め込んでいく。気分はテトリスだ。  どうですかと振り返ると、満足そうに先輩が頷いた。よしと内心でガッツポーズをして助手席に滑り込む。
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